好きです鈴木くん!! ～もう一つの恋物語～ Six (ページ14)

今日:16 hit、昨日:6 hit、合計:53,110 hit

254話　合わせる顔がないページ14

ーー聞き間違えるはずない。
なつかしいあの声。

昔からそうだった。
私が辛い時、悲しい時、いつだって駆けつけてくれるたった1人の。

世界で1番好きな人＿＿…。

ドアを開けたAの目に移ったのは急いで走ってきた輝の姿だった。
お互い目を見開いて、Aの目から涙がこぼれる。
荒い息を整えながら輝がAを見て口を開いた。

「木之本。
倒れたって聞いて…大丈夫か？」

輝の質問には答えられない。
ドキンと胸が高鳴って、状況についていけてないのだ。

ーー輝、輝、輝。
会いたかった。
会いたかった、会いたかった。

会いたかった。

『ひか…』

嬉しそうに涙を流しながら自分に手を伸ばすAに輝の胸がドキ…と音を立てた。
だが、もう少しで輝に触れられるところで、Aの脳裏をカイリの笑顔が横切った。

───「A」

ドクン…と大きく胸が脈打つ。
体が覚えているのだ。
カイリが抱き着いてくる感触も、手を引っ張ったときのあの感触も。

『あ…』

Aがぐっと拳を握りしめると、体をガタガタと震わせた。
そんな彼女を輝が「木之本…？」と不思議そうに見つめる。
Aは引き返すと、バタンと大きく音を鳴らせながらドアを閉めた。

「おい、どうしたんだよ木之本。
大丈夫か…？」

輝がドアに駆け寄って声をかける。
Aの胸が脈打つ中、彼女は震える体を我慢してなんとか声を絞り出した。

『……ごめんなさい。
まだ気分が悪いの。
今日は帰って…』

「木之本…？」

明らかに様子がおかしいAに輝が声をかける。
だが、Aは必死にドクン、ドクンと脈打つ心臓を押さえていた。
体が震えて涙が出てくる。

───「大人になったら結婚しような、A！！」

『うん！
輝と結婚するよ。
エッチする…！！』

ーー約束したのに、あんなに約束したのに。
体を重ねたわけじゃない。
だけど、輝を裏切っちゃった…。

───「『ありがとう…！！』」

それにちひろまで……。

もう、君達に会わせる顔がない。

後日。
RIプロダクションの窓際には巧が立って、眼下を眺めていた。

「とりあえず無事退院できてよかった。
状態も安定したようで安心したよ。
君たちの過去を知りながら黙っていた、オレやカイリ、成瀬と木之本のご両親を恨んでいるか？

サヤカ、サキ」

『「……」』

巧が振り向いた先にいたのは覚悟を決めた顔をした爽歌とAだった。
その少し離れたところにはカイリが気まずそうに立っている。