好きです鈴木くん!! ～もう一つの恋物語～ Six (ページ2)

今日:36 hit、昨日:6 hit、合計:53,130 hit

242話　フィルターページ2

キッと前を見つめる眼差しが鋭く細められる。
覚悟を決めた目だ。

ーー何があっても、Aだけは守ってみせる。

そんな輝の後ろ姿をジャージに着替えながらAは見つめる。
ファスナーを上げる前にAは輝のぶかぶかのジャージの袖を自分の鼻に当てた。
匂いがAの鼻先をかすめた。

ーー鈴木輝(あのひと)の匂いがする。

Aはチラ…と海をじっと見つめている輝の方に視線をやる。

ーーこんな大変な事態なのに、不思議と怖くないのはきっと、きっと＿＿…。

潮風に吹かれて輝の髪の毛が揺れた。
そのときに見えた横顔にAの胸がきゅん…と音を立てた。
早鐘をうつ心臓は止まらない。

ーーどうしよう。
「好き」って自覚したとたん、なんだかすっごくかっこよく見える…！！

実際はぼーっと空を見上げて(カモメって食えんのかな)とかアホなこと考えている輝なのだが、Aの目にはそれはそれはカッコよく写っているらしい。
フィルターがかかりすぎである。

輝から顔をそらしたAはファスナーを上げようと手をかけるが、中間で止まってしまい『あれ』と声をあげる。

『やだ、ファスナーがひっかかって上がらなくなっちゃった』

それに気づいた輝が振り返って、「こっち来て」とAを呼び寄せる。
素直に自分に向かってきた彼女が着ているジャージを見ると、わずかに顔を歪める。

「オレが直すから。
布、挟んじゃってる」

だが、ファスナーを上げようと視線を落とした輝はドキッと胸を高鳴らせて停止した。
そんな輝にAは首をかしげながら彼を見上げた。
上目遣いに自分を見上げるAは今は下着もつけていない状態で胸の谷間が輝からは見えている。

パーンっと高らかにサルがシンバルを鳴らす音が輝の心臓部分で聞こえた。
輝の中のイメージ映像である。
なんともバカらしい。

ーーわぁぁぁ。
ふおぉおおお＿＿＿ッ。

ファスナーに手をかけたままブルブルガクガク震えている輝に首をかしげていたAは今の状況にハッとしてバッと輝に背を向けた。
そんなAの背に輝は顔を真っ赤にして手を横に振りながら謝る。

「ご、ごめん。
不可抗力だから許して…。
(今度こそ怒られる、怒られる…っ)」

ドキン、ドキンと高鳴る胸を抑えるようにAは輝に背を向けた心臓を抑えた。
羞恥心で体が震える。

ーーどうしよう。
「好き」って意識したとたん、なんだが急にすごく、
恥ずかしい＿＿＿…。