好きです鈴木くん!! ～もう一つの恋物語～ Six (ページ1)

今日:32 hit、昨日:6 hit、合計:53,126 hit

241話　裏切れないページ1

キスを続ける二人。
息苦しくなったのかAは『…っん…っ』と苦し気な声を出す。
ドキン、ドキンと胸が高鳴る中、ぎゅ…っと輝のTシャツを握った。

『ずるい…』

発せられた言葉に輝が不思議そうにAを見つめると、彼女は顔を真っ赤に染めながら輝を見上げた。
じわ…と涙が目に浮かぶ。

『Aさんが好きなくせに、なんで私にキスなんかするの…？』

ーーこんなに優しいキスされたら私、錯覚してしまう。
もっと、もっと君に触れたいと思ってしまう。
君が誰を好きでも、私は鈴木輝(きみ)のことが好き＿＿＿…。

Aの頭にカイリの顔がよぎった。
笑った顔、泣きそうに歪んだ顔、自分にだけ向ける感情を宿す目。
いろいろなカイリの顔が頭に浮かぶと、Aは口元に手の甲を当てバッと輝から離れた。
それに輝が不思議そうに首をかしげるが、彼女は輝から顔をそらし体を震わせたまま小さく『だめ…』とつぶやく。

『私…カイリや巧さんを裏切れない…！！』

ーー今もきっと心配して私の帰りを待ってる。
記憶をなくして一人ぼっちだった私と爽歌に優しくしてくれた人たち。
ほかに好きな人ができたからって、今まで支えてきてくれた大事な人たちを裏切っていいはずない。
そんな身勝手な恋、許されない＿＿＿…。

体を震わすAの姿を見た輝は唇をギュッとかむと、口元を手の甲で覆っているAをまっすぐ見つめる。

「悪かった。
これ以上はもう何もしねえ」

その言葉にそらしていた顔を輝に向ける。

「キスして殴られねえ程度には、オレのこと好きになってくれてるってわかったから。
今はそれで十分だ」

真っすぐに自分を見つめる輝の瞳にAの心臓が音を立てる。
かあああっと顔を赤くさせ口をぱくぱくと動かしているAを嬉しそうに見ていた輝は持っていたジャージをAに差し出す。

「やっぱこっちに着替えて。
そのままじゃ風邪ひいちまう。
オレ、あっち向いてっから」

輝はAにジャージを渡すと、洞窟の入り口の方に歩いていく。
その後ろ姿を見送るAの胸はドキン、ドキンと早鐘をうっていた。

ーー鈴木輝…。

Aが着替えている間、輝はじっと洞窟の岩に座り込みながら海を見つめた。

ーーちひろ…、バスケ部のみんな。
きっと心配してるだろうな。
今日はもう遅え。
救助が来るとしても明日以降か。

「…けど最悪の事態も覚悟しとかねえと」

輝はもしもの事態が頭を横切りグ…とズボンを握りしめた。