検索窓
今日:28 hit、昨日:56 hit、合計:98,050 hit

41話 ページ41

壁の前でうずくまった清助は頭から血を流し、苦しそうに息を吐く。

清助「たとえ戦争で負けても……その〈ひまわり〉だけは取られちゃなんねぇ……」

ウメノ「東さん!東さ───」

「お嬢様っ、急いでください!!」

使用人は上着で包んだ〈ひまわり〉を抱え込んだ。
四つんばいになったウメノが、煙と炎の向こうで座り込む清助に手を差し出す。
うずくまった清助は笑みを浮かべながら、右手を伸ばした。

清助「今度こそこの日本で……武者小路先生がおっしゃったような美術館で……世界中の人に、その〈ひまわり〉を……」

使用人がウメノを抱きかかえて廊下に飛び出した瞬間、応接間の炎が一気に膨れ上がり、清助の姿は見えなくなった───。





幸二「そんな話をずっと父から聞かされてきた……」

祖父の話を終えた幸二は、どこかうつろな目でカメラを見つめた。

幸二「父の死後、オレたちは〈芦屋のひまわり〉を探し続けた。その絵を祖父から受け取った使用人の言葉だけを頼りに……」

愛梨「使用人の言葉?」

愛梨がたずねると、幸二は無言で小さくうなずいた。

幸二「連合軍総司令部(GHQ)の没収から逃れるため、贋作に装ってヨーロッパに逃亡させたと言っていたそうだ」

目を見開いた次郎吉が「ま、まさか!?」とモニターに身を乗り出す。

次郎吉「わしが落札した〈ひまわり〉は……あ、〈芦屋のひまわり〉……!!」

園子「えっ!?」

蘭「燃えてなかったんだ……!」

蘭と園子は驚いて顔を見合わせた。

幸二「ああ。オレたち兄弟はとうとう見つけ出したんだ。アルルの古民家の屋根裏部屋にひっそりと置かれていた〈芦屋のひまわり〉を……だが、長年探し続けていた〈ひまわり〉が見つかったことにより、兄は心変わりしてしまった……」

まっすぐ前を向いていた幸二は、うつむいて瞳を強く閉じた。

幸二「〈ひまわり〉は、ゴッホが愛したアルルの地に置いておくべきだと……さもなくば、この場で亡きものとするとまで……。祖父と父の願いを裏切るようなことを言い出した兄を、オレは許せなかった……」

体の横で握りしめた幸二の拳に、ギュッと力が入った。





警備室の大型モニターに映った幸二は目を開き、再びカメラをまっすぐ見据えた。

幸二『……そして、〈日本に憧れたひまわり展〉のことを知ったオレは、学芸員として参加。おかげで〈芦屋のひまわり〉が日本に戻ってくる瞬間を見ることができた。祖父の代からの願いはかなった……』

42話→←40話



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.9/10 (29 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
139人がお気に入り
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:さきっち | 作成日時:2016年10月25日 22時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。