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ろんの視線が一点に止まり、そのまま留まる。
その視線は他に向けられることはなく、ある一点だけを見つめている。
訝しく思って、彼女の視線をの先を探る。
―…“それ”をみつけると同時に、彼女の瞳の奥に閃いた悲しみにも気付いた。
「…スズム、飲み直しましょ」
「え、でも終電」
「いいの!アンタの家、ビールくらいあんでしょ。お金無いのよ、家まで連れて行きなさい」
口ごもってしまう俺をほぼ強引に引っ張り、彼女は“それ”から反対方向へ突き進む。
“それ”―…、
そらるが、彼女と腕を組んで歩いている姿から。
*
勢いで帰った我が家で、なし崩し的に乾杯をする。
目の前でビールの缶をぐいぐいと飲むろん。
…なんで彼女は俺をこんなに信用してるんだ?
仄暗い優越感に浸りそうになって、慌てて目の前のろんに意識をうつす。
彼女は、いつの間に空っぽになった缶の水滴に指を這わせながら、ぽつり、ぽつりと話し始めた。
「はは…ごめんなさい。…馬鹿馬鹿しいって笑う?」
「…ん、」
話に脈絡は無かったけれど、何のことかは嫌でも分かった。
肯定も否定もせず、反応だけかえす。
ろんは赤くなった顔をテーブルに突っ伏して、「んー…」とうなり始めた。
だいぶアルコールがまわっているのだろう。
―…けれどまだ、終電のことを考えたくないのはただ単に俺の性格が悪いからか、それとも。
「…スズムは彼女とか、好きな人とか…いないの」
「…んー…」
これにも、反応だけかえす。
酔っぱらいのイミのない問いかけだと割り切るには、彼女のことが好きすぎた。
「…美人の弱ってるところにつけこもうとか、考えないのね?」
―…頭が真っ白になった。
さっきまでつけていたテレビの音が、一瞬のうちに消え去ったような気さえした。
何これ、試されてる?俺。
だとしたら、なんと酷な試練なのだろう。
「…美人って誰?」
咄嗟に口から出たのは、いつもどおりの茶化す言葉だった。
ろんはゆっくり顔をあげて、クスリと弱々しく笑う。
「ほんっとあんたって…失礼な奴ね」
少し赤い目元と、舌足らずな口調に、ズクリと何かが疼いた。
俺は信用されている。
彼女の信頼に足りる男でいたい、気を許せる“友達”で。
でも―…ごめん。
知ってる?俺も男だよ、ろん。
――…正直、滅茶苦茶つけ込みたい。
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ゆづほたる - 更新ありがとうございます!!一番好きな天月さんの番外…めっちゃ嬉しいです;;さやえんどうさんの書くちょっと腹黒い天月さんが好きです!お相手は夢主ちゃんと全く違うタイプの女の人だけどどうなるんだろう… お忙しいと思いますが、続き楽しみに待ってますね〜! (2018年2月1日 0時) (レス) id: 6489e789b8 (このIDを非表示/違反報告)
まこと - お久しぶりです、更新ありがとうございます!番外編もっとみたいなーとずっと思っていたのであたらしく天月くんのお話が読めて嬉しいです…!他にも書く予定があるようであれば、大人になったみんなが集まって久々に同窓会みたいなのとか見てみたいです…(( (2018年1月28日 1時) (レス) id: 198b5f1113 (このIDを非表示/違反報告)
モノクロメロディ―。(3人目)@ついった(プロフ) - お久しぶりでございます!更新も、主人公が当時推してた天月さんなのも本当にうれしいです。ありがとうございます、若返ります(^-^)月9な天月さん楽しみです~!! (2018年1月21日 16時) (レス) id: f70edfb1d2 (このIDを非表示/違反報告)
ハル@チョコレート食べたい系女子(プロフ) - 更新ありがとうございます! お久し振りの更新、とても嬉しいです! 天月さんの月9のような恋愛、とのことでとても楽しみにしてます! 作者さんのペースでゆっくり頑張ってください! (2018年1月21日 16時) (レス) id: 0930a1d22b (このIDを非表示/違反報告)
夢羽(プロフ) - お久しぶりです!!三年前の当時からずっと読み続けさせていただいてます!!やっときました天月さんにスポットが!!と凄く楽しんで読まさせていただきました!続きが凄く楽しみです!ご無理のない範囲で頑張って下さい!応援してます! (2018年1月20日 23時) (レス) id: 3004edeb5d (このIDを非表示/違反報告)
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