【歌い手】シェアハウスでの日常、その後。

＊5＊ ページ20

prrr…

携帯の着信拒否を解除するなり鳴る着信音。
相手は、ナノさん。

「もしもーし」
【もしもしじゃないよ！！着信拒否って何、どんだけ心配したと思ってんの、今どこ！？何してんの！？】

電話に出るなりマシンガン並みにまくしたてるナノさん。俺は苦笑いをした。

「やだあこわぁい。今ねえ〜日本にいるの」
【JAPAN！？なんで！？日本で仕事なかったよね！？】
「ん〜？んふふ、ヒミツ」

秘密って…と、電話の向こうのナノさんが狼狽するのがうかがえる。

ーーー灯油に言ったことは、嘘だった。
日本で仕事なんてなかった。急いで片付けて時間を作った…なんて、全部全部でっちあげだ。
単純に会いたくなったー…なんて、子供っぽすぎる理由だろうか。

【とーにーかーく！3日後にはスペインで合流だからねっ、いい！？】
「はいはーい」
【…嫌になった、わけじゃない？】

おずおずとたずねられた言葉。
ナノさんには、俺を連れてきてしまったという負い目がまだあるらしい。
俺はくすくす笑って答えた。

「うん、嫌になってないよ。ただ、ちょっと…疲れただけ」
【そっ、か。うん、ナノも分かるよ。アンさんに会いに日本に行ったこともあるしね。…会いに行ったのは、灯油さん？】

嘘をつく必要もない。正直に「うん」と肯定すると、受話器の向こうのそっか、という声が安堵を滲ませた。

「うん。じゃあ、3日後に」
【はーい。気をつけてね】
「ナノさんも」


電話が切れる。
この仕事をしていると、人間の嫌な部分が嫌でも目についてしまう。
もちろん、いいこともたくさんあるのだけれど。

「“時間が止まっても、おまえはけっきょく進んでいきそうだけどな"…かあ」

ぽつりと灯油の言葉を反復して、ふっと笑った。

ねえ灯油、俺はきっと進んでいくと思うよ。
でもそれは、灯油もどこかで同じスピードで進むからって信じていられるからなんだ。

そんなこと、恥ずかしくて言えないけれど。

ぬいぐるみを鞄に詰めて、俺は空を見上げる。

五月晴れの空、飛び立った飛行機は白く白く。

ありがとう。

次会える時はいつか分からないけれど、どうか楽しみに待っていて。

じゃあ、またね。
見上げた空は、美しく晴れていた。

〜〜〜〜
お久しぶりです！！
初めましての方は初めまして！読んでくださりありがとうございます！
もはや誰も読んでくれないとは思っていたのですが自己満足で続きを書きます！
ぼちぼちコメント返していきますのでよろしくお願いしますm(_ _)m

【ぐる】Nearly brother complex！！【優】→←＊4＊

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す