【歌い手】シェアハウスでの日常、その後。

＊５＊ ページ14

件名は無し、文面は“お疲れ様、仕事はどう？今日はAちゃんと飲んで帰ってきました。明日はお店は定休日です。何時に帰ってくるかわかったら教えて”。

ちょっとそっけないかなぁとも思ったけれど、これを逃したらもう送れない気がする。
いつも平然と送れていたメールが送れなくなったのは、「重いから」とか考えてしまったから、たぶん。


送信ボタンを押して、そわそわとアプリを起動してみたりツイッターで呟いてみたり。

なにかで気が紛れないかとは思うけれど、考えないようにすればするほどメールの返信が気になってしまう。


ふと周りを見ると、いつもは聞こえるテレビの音とか、人がいる気配とかが感じられなくて。
大きなベッドだって、ひとりで使うのには大きすぎる。




はやく返信こないかな。


はやく、はやく―…、





＊

「――…ん、」


朝の光が眩しい。
目に飛び込んできたそれに眩みそうになりながら、右手にしっかり握られたスマホを見て苦笑いをする。

返信を待っていて寝おち、か。

ロック画面に表示される“新着メール１件”の文字に気を取られて、今日は隣の冷たいシーツに気を配る暇は無かった。

目が一気に冴える。なんだかんだ言って、私もそらるにベタ惚れだ。


見慣れたメールアドレスからのメールを開くと、表示されたのは何文か。


“まふくんと俺も飲みたいです。明日は朝から夜までに帰ります”


…なんてアバウトでそっけない！

思わず口に出しそうになったが、なんとか抑えた。

だって、だってこんな。

ちょっと期待していただけに、がっかり感は否めなかった。
…こんなの、まふくんに見せたら大喜びしそうなメールってだけじゃない。

頬を膨らませて、スマホをつんつんとつつく。


「馬鹿」

そんな言葉も、届けたいときに届かないとこんなにしんどいんだなぁと思いつつ。



「誰が馬鹿だって？」
「…、」



背後から、声が聞こえた。


弾けたように振り向くと、そこで苦笑していたそらるは軽く手を振った。


「ただいま」
「お、かえり…なさい。早いわね…」
「だってろん、今日定休日なんでしょ」


そらるは荷物やらコートやらを床にぼんと投げ捨てて、ベッドに座って私を抱き寄せる。
いつものぬくもりに、ほっと息が漏れるのが自分でもわかった。

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