【歌い手】シェアハウスでの日常、その後。

＊プロローグ＊ ページ1

『まふくんこのダンボールどこ置けばいい？』
「どんなやつー？」
『んっとね、“本類”って書いてある』
「あ、じゃあそれ俺の部屋でー」

アンさんが旅立った春から、3年。
私とまふくんは大学4年生になっており、大学は今年で卒業する。
天月くんとしゃむくんも今年で大学は卒業(しゃむくんは院に進むらしいが)。

店長は相変わらず会社勤めで、96ちゃんは様々な事情で親と過ごせなくなった子供が入る施設に就職した。

アンさんはたまに連絡を寄越すくらいで、この３年間は片手で数えられるほどしか会っていない。
けれど、変人っぷりに磨きはかかったようだ。

灯油さんは去年会社を継いで社長になった。２８歳の若社長、社内でモテモテらしい。



―――…そんなこんなで、シェアハウスからは、全員引っ越すことにした。
96ちゃんも就職したし、天月くんは既に内定が取れているし、しゃむくんも進路が決まっている。
私もまふくんも今年卒業…ということで、全員で話し合ったのだ。

…というか、「人数が減るならひとり暮らししようかな」と全員が思っただけだったのだが。

私とまふくんの大学にほど近いマンション。
今日は、まふくんと私の引越しの日だ。

「A！何ボーッとしてるの？大丈夫、疲れた？」
『だっ、大丈夫！』
「ほんとに〜？」

まふくんに顔を覗きこまれて、思わず悲鳴をあげかけた。
この3年で、まふくんは随分かっこよくなった。
…いや、もともとかっこよかったんだけど。

少年らしいあどけなさは面影を残すほどになり、背も、力も、私じゃ到底かなわない。

…それに。


「…これからいっぱいイチャイチャできるね？」
『―っ…』

悪戯っぽく微笑んで、耳に甘く囁くまふくん。
私は顔を真っ赤にして俯く。

―…それに、何だかレベルアップしている。色々と。…そう、色々と。

この3年で、二人で旅行にも行ったし、デートもしたし、沢山経験は積んでいるはずなのに、経験値が増えるのはまふくんだけな気がする。

シェアハウスにいる間はさすがにその、…そういう、何ていうか、夜にやらしいことはしないしできない分、二人きりのときの雰囲気の甘さは凄まじい。

…同棲したらこれが日常となることを考えると、今から気が遠くなりそうだ。
お願いだからもってくれ、私の心臓。

“本”と書かれたダンボールを開けると、アルバムが入っていた。
思わず手に取って開く。



色鮮やかに、3年間の思い出が吹き出してきた。

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