act 61. 好きだよ ページ14
「ここって……」
前に撮影で使った公園が近かったので連れてってみたら、案の定知っているような反応だった。
「知ってる?」
「イベントの、告知してたとこ……」
「さすが」
「ずっと、応援してたから」
「俺とは知らずにね」
そうやって笑うと、Aは不貞腐れたように口を尖らせる。
「拓哉くんだなんて思わないよ、あの頃あんなにかわいらしかったのに、こんな大声下ネタ実況者になってるなんて!」
「ちょ、やめろ! 俺だってそんな風になるとは思わなかったわ!」
大声下ネタ実況者とは、なんて酷いことを言うのだろうか。俺だって別に、そうなろうと思ったわけではなく、気づいたらなっていたと言うのに(……ということにしとく)。
「……なんか変な感じ」
滑り台の階段を登りながら、Aがそう言った。なんで登ったんだ、思わず見上げると、Aはにやりと見下ろしてきた。
これが目的かよ。
「記憶の奥底にずっといた人が、ずっと応援してた推しだなんて」
そう言って笑う彼女は、月明かりに照らされて、とても綺麗で、儚く見えた。
「俺もだよ」
「へ?」
俺は彼女へと近づく。
ヒールの高い靴と、滑り台の階段で、Aの顔は俺の顔よりも少し高い位置にあった。
「好きな女が、まさか推しの歌い手だとは思わなかったわ」
「……え?」
そう、これを言うために俺は君を連れ出したんだ。
戸惑うAに、俺は真っ直ぐ目を見て言った。
「好きだよ、A」
階段をぐっと踏み込んで、俺は君にキスをした。
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作者名:咲希さん | 作成日時:2021年3月27日 10時