episode1. ページ3
結局、久しぶりの休日はダラダラして過ごした。
溜まっていた実況動画を消費して、満足して寝た気がする。
だけどどこか、私はそわそわしていて。
きっと変な夢を見てしまったから、なんだろうけど。
「遅刻するっ……！」
寝坊するとは思わなかった。
よりにもよって、大事な取引先との打ち合わせの日に、遅刻なんて有り得ない。
タンスの1番上にあった服を引っ掴んで、過去最速で着替えたと思う。
急いで髪を束ねて、ファンデーションとチークのみで顔面を誤魔化す。
玄関前の姿見で簡単に全身をチェックして、私は家を飛び出した。
久しぶりに思いっきり走ったせいで、私は肩で息をしていた。
何とかいつもの時間に間に合って、ぜーはーぜーはー言いながら電車に揺られ、呼吸が整ったところで会社の最寄りに着いた。
これなら、打ち合わせの前に、もっとちゃんとメイクが出来そう。
そう思いながら歩いていると、不意に声を掛けられた。
「あれ？ Aちゃん？」
その声は、私のよーく知っている声で。
声のする方を振り返れば、そこには。
「店長！」
私の学生時代のバイト先、ゲームショップの元店長が、あの頃とは変わらない優しい顔で立っていた。
どうやら今は、ガッチマンという名前で実況者として活動しているらしく、時々動画を見させていただいてる。
「やっぱりそうだー。てか、俺もう店長じゃないからその呼び方やめてよ〜」
「だって店長は店長ですもん。この辺にいるの珍しいですね」
「あー、友達の家がこの辺にあってね、ちょっと集まろうってなったんだよ」
「そうだったんですね！ 私はこれから打ち合わせです」
「あ、ごめんね、仕事行く途中か」
「いえ！声掛けて頂いて嬉しかったです！ 今度は奥様とお子さんと、遊ばせてくださいね！」
そう言って私たちは別れる。
この再会が、あの夢に繋がるとは、この時は考えることすらなかった。
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作者名：咲希さん | 作成日時：2020年12月22日 15時
