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夜に恭介くんの様子を見にICUを訪れると、骨盤の創外固定を施された男性と 救命のフェローが話している姿が目に入った。
恭介くんのカルテを確認していると、2人の会話が自然と耳に入ってくる。
名取「そんなに自分 責めないでください。 あそこって狭かったじゃないですか!増水もしてたし、あの状態で全員 助けられなくても、誰も責められないですよ。」
倉田「確かにそうだ。 でも…レスキューの現場に条件の良い時なんて…ない。だから、何かあった時 言い訳をしようと思えば いくらでも出来る。」
その言葉を自分に重ねてしまう。
心臓オペなんて 常に死のリスクと隣り合わせだ。オペをしたからと言って、必ず助かるとは限らないし、最悪の場合 術中死だってあり得る。
オペは上手くいって当たり前、失敗すれば人殺しと罵られ、恨まれる。
だから 簡単なオペしか引き受けない医者だっている。失敗してキャリアを失うぐらいなら、安全な道を取りたいと思う人間は多い。
倉田「でも、そんな言い訳をする人間に命を預けたいと思うか? 人は…起きた事は全て自分の責任だと言い切れる人間に…命を預けたいと思うものだ。
俺の仕事は そういう仕事だ。
ドクターヘリだって そうでしょ?」
その言葉を聞いて、ハッとした。まだ医学部に入ってすぐの頃、聞いた事がある言葉だったから。
人は積み木を高く積み上げれば積み上げただけ、その積み木を守ろうとする。
誰にも倒されないように、もっと高く積み上げようと必死になる。
その隣で 誰かが困っていても 手を差し伸べなくなる。
救命のフェローは 痛い所を突かれたのか、手袋を外して その場を足早に去って行った。
その患者の前にゆっくりと立つ。
倉田「?」
『心臓外科のAと言います。レスキュー隊の方ですね?』
倉田「はい…倉田と言います。」
『学生の頃に あなたの特別講義を受けました。もう何年前の事ですが。』
倉田「そうでしたか…翔陽大の?」
『はい。その講義の中であなたはこう言いました。《レスキューの現場では時間が無いのが当たり前。30分しか無いんじゃない、30分もあるんだ。》
講義室の片隅で わたしはその言葉をノートに書き留めました。』
倉田「…」
『ありがとうございます。あなたのお陰で決心が着きました』
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作者名:water lily | 作成日時:2017年10月14日 23時