証明 ページ24
朝食の時間。
食器同士がぶつかる音だけが、この場に寒く響く。
「A、ご飯粒ついてるぞ」
「え、あ、ごめん。ありがとう」
焦凍にぃに声をかけられても、以前のような嬉しさは全然ない。
もう、何も知らないような白々しい声で私に話しかけないで。
「行ってきます」
家の方を振り返らず、声だけ残すだけ残して私は学校へと向かった。
ある覚悟をして。
今日、学校から帰ってきたら、私は"個性"の譲渡のことを、焦凍にぃと話す。
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今朝、焦凍にぃと話す覚悟はしたものの、やっぱり怖いものは怖くて。
ふとした瞬間に、これを話してしまえば焦凍にぃに嫌われてしまうのではないか。
嫌でもそんなことを考えてしまう。
やっぱり私まだ、焦凍にぃのこと……
あのことがあってからは、この気持ちに蓋をしてきたつもりだ。
自分が壊れてしまいそうだったから。
でも……このままで言い訳がない。
重い足取りの私を引きずるように、焦凍にぃは私の前を歩く。
視界に入るその後ろ姿でさえ、苦しい。
鉛のような足を引きずっていくうちに、とうとう家に着いてしまった。
私と焦凍にぃはそれぞれ「ただいま」と短く挨拶をして玄関に入り、靴を脱ぐ。
手を洗ってから自室に向かおうとした焦凍にぃを、私は意を決して呼び止めた。
「焦凍にぃ」
少し震えた声。
焦凍にぃは私の方を振り返り、コテンと首を傾げた。
「どうかしたか？」
「あ……あのね、その……」
なんて言えばいい？
頭の中が真っ白になる。
混濁した脳みそで必死に言葉を紡ぐ。
「ある日……聞いちゃったの。パパの独り言を」
「……」
焦凍にぃの顔が厳しくなる。
ああ、悟られたんだ、と一瞬でわかった。
それほどまでに、鮮明だった。
「焦凍にぃは……なんで私に"個性"を譲渡したの？」
緊張と恐怖と不安で、視界がチカチカする。
貧血の時みたいに、足に力が入らない。手足が痺れる。
焦凍にぃはそんな私から目を逸らし、ボソリと呟いた。
「クソ親父」
「……え？」
『クソ親父』
信じられなかった。
焦凍にぃが、そんな言葉を呟くなんて。
信じたくなかった。
取り繕うように私を見つめる、焦凍にぃ。
その瞳には、私を見つめているはずなのに私はちっとも映っていなかった。
「何を言ってるんだ？ そんなことするはずがないだろう」
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作者名：emiria | 作成日時：2021年6月12日 17時
