焦凍にぃ ページ2
『A……』
『しょ、焦凍にぃ……？』
間近に迫る、焦凍にぃの整った顔。
恥ずかしくなって、私は思わず目を逸らす。
でもそれも、焦凍にぃに顎を掴まれて戻されてしまった。
どうしよう。
背後は壁。
前も横も焦凍にぃに遮られてて、逃げられそうにない。
ジリジリと迫る焦凍にぃ。
『好きだ』
どくん。
大きく心臓が跳ねる。
焦凍にぃは私の顔を真っ直ぐに見つめてきて、その視線方は逃げられそうにもない。
でも……
『私も……好き。私も、焦凍にぃのことが好き』
『……そうか』
安心したように微笑む焦凍にぃ。
抱きしめられる。
そして少しの間私たちは見つめ合い、雰囲気のままに私は目を瞑った。
焦凍にぃの吐息を、自分の肌に直に感じる。
そして、唇を重ねて……＿＿
ぺちん。
……え？
キス……じゃないの？
期待していた口元への柔らかな感触とは違い、頬を優しく叩かれた感触がする。
恐る恐る目を開けてみると、そこには焦凍にぃの顔面がドアップで広がっていた。
びっくりしたけど焦凍にぃがカッコ良すぎて、上がりかけた声にならない悲鳴がヒュッと喉奥に引っ込んだ。
「遅刻するぞ」
「え？」
「今7時過ぎてる」
「え、うそ⁉」
「本当だ。……おはよう」
「お……おはよう」
ああ、朝から心臓に悪い。
左右で異なる紅白の髪、モデルとか俳優とかをやればすぐに人気が出てもおかしくないくらい整った顔。
私の兄、焦凍にぃは、良くも悪くも、いつも心臓に悪い。
「ほら、急げ」
「う、うん」
恥ずかしい。こんなに寝癖だらけなの、みられちゃった。
それに……
おかしい、おかしいよね。
家族なのに。血の繋がった家族なのに……なんで私は、焦凍にぃを見るだけでこんなに心臓をバクバクさせているんだろう。
ううん、きっとびっくりしただけ。
自分にそう言い聞かせて、私はバタバタと洗面所に向かった。
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作者名：emiria | 作成日時：2021年6月12日 17時
