凪と月伍 (ページ13)

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新月の夜⑤ ページ13

義勇side

俺の手を引っ張った時、Aの背はとても細く見えた。

それが、この一ヶ月間の彼女の生活の過酷さを物語っている。

でももう一つ、Aはその細い背に怒りを宿しているのに気がついた。

普段あまり怒らない彼女……怒っても、そう顔を真っ赤にして怒ることなんてなかった。

だから、今彼女が怒っている、このことを察するのに時間は要らなかった。

「私はこの一ヶ月間、ずっと館や兄のことについて調べてきました。」

心なしか、少し低い声で話し始めるA。

その顔は俺からは見えなかったが……きっと、怒り顔を通り越した無表情なんだろう。

「私は、さっきの通り、ネズミと契約を交わした後、ネズミの姿……というか、ネズミに移り込んでこの洋館のことを調べて……驚きました。兄は、何の関係もない人を、人体実験に利用していました。

ここには、実験室の他に、地下に牢屋があります。……私が見た時には、すでに亡くなっていた方が数人いました。

私はもう一つ、この一ヶ月間で館の所有権を兄から奪い取りました。
義勇さんが先程見た私の血鬼術……あれは、私が一ヶ月かけて兄に悟られないように用意してきたものです。同じものが、この館の全体に広がっています。」

そこまでしたのか……

静かに淡々と告げられた彼女の一ヶ月越しの告白に、俺は肝を抜かざるを得なかった。

敵地には潜り込むだけでもかなり危険が伴う。

それに加え、気づかれないように敵に探りを入れるとは……

……そういえば。

「お前、ここにいる間、食事はどうしたんだ？」

さっきの、人間の腕を抱えた偽Aの姿は、今思い出すだけでもゾッとする。

だが、今目の前にいる彼女は、薄暗がりの中、微笑んでこう答えた。

「いや、それもネズミに化けて外に出てました。街に出るときに人間の姿に戻って、普通に食べに行ってました。」

「そ、そうか……」

なんか、西洋の鬼は血液で何でもできる気がしてきた。

「でも、血液の使い過ぎは私たち吸血鬼にとって最大の死因です。ほとんどのことは血液で何とかできてしまうので……」

「そうか」

今のAの言動……まるで鬼の力の短所まで知っているようだ。

なら、あのことはもうわかっているはず……

歩き始めてから数分ほどが経ったあと、俺たちは頑丈な扉の前にたどり着いた。