凪と月肆 (ページ9)

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飛散する噂① ページ9

義勇side

先日、炭治郎から蝶屋敷での療養を終え、柱稽古に参加し始めたとの旨の手紙が届いた。

怪我が治ったことを無事に思う文面を書き、寛三郎に持っていくように頼む。

昼下がりの屋敷はひどく静かだった。

「……違う。こうだ」

屋敷では俺が稽古をつける柱稽古が行われていた。

鱗滝先生直伝の『腰叩き』で男子隊員の引けてしまっている腰を戻す。

ちなみに、この腰叩きは男子隊員にしかやらない。当たり前だろう。

「え、え……っと」

「腰が引けている」

「は、はい！」

柱稽古に参加する際、悲鳴嶼さんから、『途中から参加することもあり、お前は柱稽古の一番最後の稽古を務めることになるのだから、他の者よりも厳しく指導するように』と言われた。

正直俺は口下手なこともあって、鍛錬の指導には向いていないと思っていた。

だが……

「水柱様の稽古って、体で教えられている感じがするよな」

「ああ、頭じゃなくて体で覚えられて、実践にもすぐに活用できそうだな」

隊員たちには好評のようで、安心した。

しかし、それに比べて……

「月柱様の稽古は、あれは厳しかったよな……」

ある隊員の言葉に、周囲の人々も次々と頷く。

どうやらAの柱稽古は厳しいということで評判だった。

汗を拭いながら一人の男子隊員がつぶやく。

「どうやったらあんな体格差で相手をぶっ飛ばせられるんだよ……」

「月柱様って、剣術よりも体術だもんな。こえーよ！」

「俺聞いたことがあるぞ。何でも、『私は体格に恵まれていない分相手の狭い懐にもとびこめられるし、相手の体幹を崩しさえすればあとはこっちのものだ』って……」

……確かに、Aなら言いかねないな。

なにせ彼女は、あの松川師範の弟子なのだから。

「でもなあ……鍛錬でバチボコにされても、あの飯と笑顔には勝てねえよなあ……」

「お前もか！」

「あれは人類を救う」

「でも……今は療養中で、面会謝絶中なんだろ？」

「ああ……心配だよな」

隊員たちの会話が耳に入っている間、俺は今は蝶屋敷で療養中のAに想いを馳せた。

(続く)