凪と月肆 (ページ8)

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手も足も⑧ ページ8

(続き)

私は鞘に収めた剣を杖に、壁を伝いながら3人から離れたところへ向かった。

傷口を縫うためだ。

しかし、手当て用の糸は全て血で赤黒く染まっており、針も酸化しかけている。

その上、糸の残りが少なかった。

先ほど、一般人や他の隊員に使ったことでかなり消費してしまったのだ。

血液で滑る指先を隊服の乾いた部分で拭き、私は針に糸を通した。

靴を脱ぎ、隊服のズボンの裾をまくる。

その中でもより深いものを優先に、私は傷口を自分で縫っていった。

しかし、残りの糸が短かったのもあって、足の怪我の三箇所しか十分に縫うことができなかった。

縫い終えた後、私は隊服の裾を直す気力もなくなり、壁にもたれかかった。

「……A」

心配そうな顔で私の顔を覗き込んでくる義勇さん。

「……大丈夫か？」

口下手な彼は、硬い声でそう聞いてきた。

私は何も言えず、ただ目を伏せた。

「取り敢えず、隊員が持っていた包帯をもらってきた。気休めにしかならないのはわかっているが、取り敢えず止血をしよう」

そう言われても何も動きもしない私を、義勇さんはゆっくり、丁寧に扱ってくれた。

めくったままの裾から出ている両足を始め、腕や頭部にもきつく包帯が巻かれる。

彼は私の腹部に手を当て、「いいか？」と聞いてきた。

頷く私をみて、彼は私の隊服のボタンに手をかける。

腹部の負傷は特にひどく、痛みで感覚が麻痺していたため、彼の手の感触は一切伝わってこなかった。

「……お前はよくやった」

手のひらに伝わる彼の熱に絆されるように、私の視界は涙で歪み始めた。

私の血ですっかり汚れてしまった義勇さんの手。

私の涙でさらに汚れてしまうにもかかわらず、彼は私の元に隠の人が来るまで、ずっとそばにいてくれた。