手も足も�� ページ7
Aside
私は猛烈に焦っていた。
早く、早く兄の首を切らなければ。日が昇ってしまう前に。
日が昇ってから私が兄の首を切れば、私は殺人の罪に問われる。
だから早く兄の元へ行き、殺さなければならなかったのに。
なのに……――
「残念だったね」
勝利に微笑んだ兄が、私を軽蔑するように笑う。
私は兄の首へと剣を持ち上げたはものの、兄の首を切る直前で腱を止めざるを得なかった。
悔しさと怒りで全身がおこりのように震える。
「……卑怯者っ」
「誰が卑怯者なんだい？ 日が昇るというのは皆平等に与えられている自然界の現象だよ」
「〜〜っ」
地団駄を踏むしかない。
あと一歩だったのに……そんな言葉は通用しない。
それにしたって、ひどい差だ。
私は全身血まみれのボロボロ、兄はかすり傷ひとつなく、唯一血で汚れている右手は彼の妻の頭部を引っ掴んだ時についた血だ。
「今回はもうお暇しようかな……あ、そうだ」
兄が私の耳元に囁きかけてくる。
「また迎えに来るよ」
それは、今の私にとっては地獄への連行宣言と等しいほどに恐ろしいものだった。
兄はきっと、私と彼の妻との会話を聞いていたのだろう。
だから知っている。
自分らの父が、妹の手によって殺されたことを。
だから目的を私に変えた。
最悪のお話が出来上がってしまった。
体中がズキズキと痛むが、喪失感でそれらには少しも構ってあげられる暇がない。
後ろから駆け寄ってくる足音が聞こえた。
「A！」
「Aちゃああんっ‼ 大丈夫⁉ ってか大丈夫じゃないよね、大丈夫って言っちゃいけないところまで来てるよそれっ‼」
「おい親分、死んでねえよな⁉」
そっと背中に手を当てられる。
顔を見なくっても、声を聞かなくても、これはわかる。
私の一番大好きな人、義勇さんの手だ。
「A、――」
私は彼から何を言われるのかが怖くて仕方なかった。
理由なんてないけど、それ故にとても強い恐怖心を抱いた。
私は彼の声に被せて乱暴に吐き捨てる。
「隠が来たら、まずは一般人のことを最優先するように。蝶屋敷以外の医療機関には関わらせないこと。次にあなたたちを含む鬼殺隊員、私は最後に回して」
「で、でも……」
義勇さんは何も言わない。
善逸くんの泣きそうな声が私の心に痛く染みた。
(続く)
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作者名：emiria | 作成日時：2021年1月5日 21時
