凪と月肆 (ページ25)

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空元気② ページ25

Aside

「いらっしゃい」

柱稽古を終えたすぐ後、日がだいぶ傾いてきた頃。

私は門を開け、炭治郎くんを出迎えた。

そのまま私の自室の方へ案内する。

あらかじめ用意していた座布団に彼を座るように促し、私も彼と向かい合うようにして座布団の上に正座した。

「話っていうのは……」

最初に声を出したのは炭治郎くんの方だった。

これから私が話すつもりでいることは、彼も大体察しているだろう。

私はうなずいて答えた。

「うん、お察しの通り、私の兄への戦略だよ」

「……」

無言で身を引き締める炭治郎くん。

私はこれからの計画……もとい、戦略を、順を追って説明する。

「まず、第一段階。兄が私の元へやってくると予想される日は、約一週間後の満月の夜」

「えっ、それってだいぶ近い日だよね⁉」

驚く炭治郎くんに、私は肯定の意で首を縦に振る。

「そう。だからあまり時間はない。……予想の理由は、二つ。二週間前の舞踏館での戦いの話は、炭治郎くんももう知ってるよね？」

「うん。確か、Aさんのお兄さんとその奥さんが現れたって……」

「そう。その時、私は妻の方は倒すことはできたけど、兄は捕らえることすらできなかった。一方、兄は余裕綽々、といった感じに私に襲いかかってきた。だから、私のことを、その時すぐにでも捕えるつもりだったと思う。……これが一つめの理由。
　もう一つの理由は、満月の夜だから。舞踏館での戦いで、兄は光を操る鬼の力を持っていることが判明した。満月の夜は私たち吸血鬼にとって、戦うのに最も好都合な夜。それに加えて、たくさんの光がより蓄えられる……こんな好機を、兄が逃すはずない。」

「じゃあ……もしお兄さんが現れたら、ここで戦うの？」

先の戦いの凄惨さは、炭治郎くんの耳にも当然届いている。

というか私が満身創痍で蝶屋敷に運ばれてきた時点で、ただごとではないことは確定だ。

私はあの夜、隠の人に背負われて運ばれていく途中、朦朧とした意識の中で私の元に駆け寄ってくる炭治郎くんを見た。

彼もあの夜のことは覚えているだろう。

恐る恐る聞いてくる炭治郎くんに、私は首を横に振った。

「え、じゃあどこで……」

「私は兄のことを知らなさすぎる。……これが第二段階。私は兄の洋館に潜入して、少しでも彼の情報を集める。」

(続く)