凪と月肆 (ページ22)

今日:2 hit、昨日:1 hit、合計:7,399 hit

飛散する噂⑭ ページ22

Aside

手に持つ刀をぐっと腹部に近づければ、金属特有の、あのひやっとした冷気が私の背中にまで突き刺さる。

私がここまでするのは、何も私自身が侮辱されたからではない。

義勇さんに迷惑をかけてしまったこと、そして何より……

「今のあなた達の発言では、お館様を批判することになる」

「っ、そ、それは……」

みるみるうちに顔が青ざめていく隊員たち。

自らの発言の重大さを、ようやっとわかったらしい。

私は静かに、本当のことを言った。

「確かに……私は父親を殺した。でもそれは、鬼殺隊への服従を、行動をもって表すため」

「「「！」」」

(おい、やめろ)

目線でそんなことを訴えてくる義勇さんを無視し、私は母のことも言った。

「母親は鬼に殺された……その時、私もいた。日輪刀こそ持ってはいたものの、その時はまだ最終選抜を受けていなかった」

ダンマリとする隊員。

「私はお館様……いや、鬼殺隊と契約をした。私は決して人を襲わない、と」

「……そ、それじゃあ……」

身を乗り出して聞いてくる隊員。

私は彼に向かって堂々と言った。

「私は人の血肉に触れたことは一切ない。……当たり前でしょう？」

静まる隊員。

「……他に何か、文句でも何でもあるのなら言ってちょうだい」

「い、いえ……ありません！」

「そう」

私は刀を鞘へ戻し、立ち上がった。

「途中で邪魔してしまってごめんなさい。でも、私に何か言いたいことがあったら……今度は直接言ってくださいね」

私は勤めて明るい声でそう言った。

「義勇さん、ごめんなさい……」

「え、あ、いや……」

慌てる義勇さんの言葉を最後まで聞ける余裕が今の私にはなくて。

私は早足でその場を去った。