凪と月 弐

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あいつだけでも② ページ10

不死川side

「玄弥は……あいつは、俺の弟なんだ」

言った。

言っちまった。でも、こればっかりは言わなきゃならねえ。

俺はAに、全てを話した。

俺は鬼に変貌した母親に襲われ、生き残った家族は玄弥だけであること。

だが、アイツには……玄弥にはきっと、嫌われていること。

その理由も――

このことは全て、鬼殺隊に入ってから今まで、誰にも話さなかった。

俺は不器用だ。それを自覚している。

わざと自分が抱えているものへ怒りを抱き、それによって思いを紛らわせるしか、できねえ。

だが今、そんな弱さは通用しない。

俺は玄弥がAの率いる特殊部隊に入ったと知った時、焦った。

それは、アイツが鬼殺隊に入った時も同じだった。

俺は、アイツが幸せに生きていけるような世界にするために鬼殺隊に入った。

それなのに、アイツを戦いに関わらせてしまっていいのか。

「……鬼殺隊に入ったものは、本人に辞めさせるしかねえが。六岳村で、アイツが負傷したっていう知らせは俺にも届いている。別にお前を責めるつもりは一切ないが……だが、出来るだけアイツには、危険な目には遭ってほしくねえんだ」

「不死川さん……」

Aは俺と目を合わせず、何かを考えるそぶりを見せている。

そして、軽く頷いて言った。

「わかりました。玄弥君に話してみます。不死川さんの気持ちは……」

「それは……悪いが、黙っててほしい」

それは無理です、とか断られるんだろうな……とか思っていたが。

Aはわかりました、と頷いて言った。

「玄弥君には、今の状態では人数が足りているから、と話しておきます。そのあとの事はまた、お伝えしますね」

「ああ……ありがとうな」

「いえ。……大切な人には、幸せになってほしいですよね」

Aの言葉に、俺は、ああ、と頷く。

「しのぶさんが待っているので」

そう言って踵を返すAの後姿を、俺は、尊敬と感謝の意を込めて見つめた。