凪と月 弐

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不確実な約束② ページ33

Aside

屋敷を出てから一時間弱ほどで、私たちは海にたどり着いた。

二人並んで、海を眺める。

自然の音が、空気が、匂いが、心地いい。

海は好きだ。

義勇さんみたいだから。

しばらく私たちは、この波打つ音に耳を澄ませていた。

辺りは少し肌寒く、風当たりが少し強い。

けれどもそれのおかげもあってか、すぐ横にいる義勇さんの温もりが、私にも伝わってくる。

海がキラキラと太陽を反射していて、少し眩しい。

私は目を細めながら、泡沫の願い事を心中で呟く。

(こんな穏やかな時間が、永遠に続けばいいのに)

その幻想に身を任せれば任せるほど心は幸福に温められ、

逆に、その幸福に胸を締め付けられる。

ふと、義勇さんが言った。

「……綺麗だな」

それに、私も応える。

「はい、とても」

「きっと、鬼のいなくなった世界はもっと綺麗なのだろう」

「この海のように？」

「ああ。……A」

「はい」

名前を呼ばれ、彼の方を向く。

静かな瞳が、見つめ返してきた。

義勇さんはそっと、私の手を包むように、手を握ってくれる。

「俺はその美しい世界で、お前と共に生きたい」

＿＿ああ。

「色々と足りなさすぎる男だが……それでも、お前がいいと言ってくれるならば」

＿＿義勇さん。

「俺はまた、お前に簪を送る。本当の意味で」

あなたは……＿＿

「俺の、妻になってはくれないだろうか」

私の前に跪き、左手を差し出してくる義勇さん。

嬉しい。

そのはずなのに、私は。

なぜか。

悲しみいっぱいの、涙しか溢れ出てこない。