凪と月 弐

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鬼を殺す者⑯ ページ31

玄弥side

今日は蝶屋敷で、しのぶさんの身体検査を受ける日だ。

あの人、いつもなんか怒るから怖いんだよな……ちょっとだけ。

でも、炭治郎が言ってた。

『しのぶさんは玄弥のことが心配なだけだよ』

あの言葉を聞いてから、しのぶさんに対する怖さというのは無くなった。

でも……

「玄弥君」

「っ、は、はい！！」

この急に後ろからくる感じは、まだ慣れない。

足音がしなくて、いつの間にか背後にいるんだ、この人は。

「何でしょうか、胡蝶さ……あ、羽衣紫さん？」

てっきり、俺の後ろにいたのはしのぶさんだけかと思ったけれど、今日はどういうわけか、羽衣紫さんも一緒にいた。

「こんにちは、玄弥君。久しぶり」

「え、ああ……こ、こんにちは……っす」

久しぶりに見る、羽衣紫さんの前に、思わず緊張してしまう。

そういやこの人って月柱で、あの水柱様の恋人、なんだよな……

「今日はAさんが玄弥君にお話があるそうなので、終わり次第身体検査にしますね」

「ああ、はい。わかりました」

そそくさと部屋を出て行ってしまった胡蝶さん。

時間もないから、と羽衣紫さんはすぐに話を始めた。

「急なことだけど……玄弥君には、特殊部隊を抜けてもらうことになったの」

「えっ⁉」

別に嫌なわけじゃない。

ただ単純に、驚いただけだ。

俺、何かやらかしたのだろうか……？

「ごめんね……」

「い、いや、謝らないでください。それよりも……その、なんでですか？」

「人数が今、足りているの。それに、玄弥君のことを、心配している人がいて……」

「それって……悲鳴嶼さんですか？」

羽衣紫さんは、何のことかわからなさそうに首をかしげた。

「ええと、俺、悲鳴嶼さんに鬼喰いしているのがバレて、今、お世話になってるんです」

「そうなんだ。悲鳴嶼さんではないかな」

「え、じゃあ誰なんですか？」

「……秘密」

秘密って。

でも……

心の中に、不意に一つの、蝋燭みたいに小さな灯りが灯る。

＿＿兄ちゃんだったら、嬉しいなって。

「……そうですか。わかりました。剣の方は、後日返しに行きます」

「ありがとう。突然の話でごめんね」

『それじゃあ』

それだけ言って、羽衣紫さんは部屋を立ち去り、しのぶさんが入れ替わりで入ってきた。

『またね』

いつも羽衣紫さんがいうこの言葉は、今回は聞こえなかった。