鬼を殺す者�� ページ20
しのぶside
「あの……毒を、作りたいんです」
……毒？
「毒、とは……鬼に効くものでしょうか」
「はい……」
……さて、困った。
てっきり、体の調子がどこか悪いのかと思ったら、毒の共同開発の依頼の話だとは。
……正直、やめておけと言いたい。
でも、言えない。
なぜなら、私も同じようなことをしているのだから……
思い口を開き、彼女に詳細について聞く。
「具体的には……どのような薬を作りたいのですか？」
「西洋の鬼にとって、香辛料と他の鬼の血液が毒だと言われています。私の血の中に香辛料を含む毒を注入すれば、それは大きな武器となると思っているんです」
それはそうだ。
相手からすれば、毒が一気に二種類体内に入ってくるのだから、武器にならないはずがない。
でも……それは……
「確かにそうですが……それは……最後の手段なのでは？」
私はここで、彼女が少し思いとどまってくれると思っていた……いや、期待していた。
しかし、違った。
彼女はしっかりとこう答えた。
「はい。ですが……兄は私と同じ、西洋の鬼の血をひく者。まともに戦っても一番勝算が高いのは私でしょう。同じように、血鬼術を持っていますから」
「でも……」
何とか反論材料はないものか。
ふと、私の脳内に一つの引っ掛かりが生じた。
「あの……西洋の鬼に効く、ということは、Aさんにも効く、ということなんですよね？」
「はい」
「その……もしあなたの兄と戦うことになれば、鬼化して、血鬼術を使うことは前提なのでしょう？ とすると、毒を入れた場合、鬼化した瞬間にAさんが倒れてしまうのではないのですか？」
お願い、考え直して。
あなたには、私と同じ道はできれば歩んで欲しくない。
そう願うも……＿＿
「そのことについては、考えてあります。肝臓に溜めればいいんです」
「っ、またそんな無茶を……！」
私が見てきた中で、一番無茶をするのはAさんだ。
以前……かなり前かもしれないけれど、私は覚えている。
遊郭の潜入任務から帰ってきた時、彼女は鬼に肩の骨を砕かれていた。
骨を砕いてしまうというのは、砕いたその瞬間にも激痛が走る。
しかも、その後も大変だ。
寝返りを打つだけでも、絶望的な痛みが襲う。
私はそれで苦しんできた隊士たちを、もう何人も見てきたのだ。
(続く)
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作者名：emiria | 作成日時：2020年8月15日 14時
