凪と月 弐

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寄り道④ ページ15

(続き)

「えええ、えっと……義勇さんは見かけませんでしたか？藍色の着物を着た、髪を一つにまとめている女性なんですけど……」

いつもよりやや早口な調子でAがそう言った時だった。

「悠！」

店の入り口の方から、焦った様子の女性の声がした。

その声がした途端、Aと繋いでいた手を離し、子供が声のした方へ駆け出した。

「お母さん！」

「悠！」

俺とAは互いに顔を見合わせ、微笑んでから、母子の元へと向かった。

「ちゃんと会えてよかったね」

Aが悠と呼ばれた子供のそばにしゃがみ、目線を合わせて言う。

すると子供は、満面の笑みで、

「うん、ありがとう、お姉ちゃん！」

よしよし、とその頭を撫でるA。

この場に、和やかな雰囲気が流れる。

子供がAと俺に向かって、こういった。

「お姉ちゃん達が着ている服を見て、僕、お母さんの言ったことを思い出したんだ」

お母さんの言っていたこと？

俺たちは二人合わせて首を傾げる。

すると、母親の方が俺たちに話した。

「あの……私、この子がまだお腹にいる時、鬼に襲われたんです。旦那は……助かりませんでしたが、私とこの子は、鬼狩り様に救われたんです」

「鬼殺隊、のことですか……？」

恐る恐る、Aが母親に訊く。

母親は、大きく、そしてゆっくりと頷いた。

「はい。この子にはいつも言っています。黒い服に白いベルトをした人たちは、私たちを助けてくれるって」

「そう、なんですか……」

なんだか、したこと以上に評価されている気がして落ち着かない。

「また、助けてもらいましたね。本当に、ありがとうございます」

ーーこういう時、この仕事をやっていて良かったと思う。

普段から戦いの場に身を置いているから、どうしても心が殺伐としたものになってしまう。

しかし、人々のこういった幸せそうな微笑みをみるたび、それが潤されていくのを幾度と感じるのだ。

子供がAのそばへ寄ってきて、

「お姉ちゃん。もう一回抱っこして？」

とせがんだ。

Aは照れ臭そうに笑いながら、ゆっくりと子供を持ち上げる。

いつの間にか空は赤くなっており、チラチラと舞う埃はその光を反射している。

いつまでも、この幸せな時間が続けばいいのに。

そう、願わずにはいられなかった。