凪と月 弐

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寄り道② ページ13

義勇side

柱合会議の後、俺は大通りへ向かった。

Aに前持って言ったように。今日は行きたい店があったのだ。

歩いて数十分、大通りの一角にある古本屋に入った。

独特の、少々かび臭いような匂いがする。

そして、もう斜めになっている日差しに照らされ、埃がチラチラと待っているのが見えた。

店の中は案外広く、俺が探しているような本はすぐには見つかりそうにない。

奥のカウンターに腰掛けていた、かなり年配の店主に声をかけた。

「どんな本をお探しで？」

「洋書だ。和訳は……どっちでもいい」

「それなら、こっちの方の棚に、確かまとめて置いてあったような……案内します」

店主はゆっくりと立ち上がり、歩き出した。

俺はその、かなり猫背になっている小さな後ろ姿の後ろをついていく。

店の奥の、隅の方にある棚の前で店主は立ち止まった。

目の前の背が高く大きな本には、洋書がびっちりと詰め込まれていた。

「旦那、外国の言葉が読めるのかい？」

「ああ……、少しだけ。幼い頃に習った記憶がある」

「ほ～、すごいのう……わしは明治以前の人だもんで、ちっともわかりゃあせんわい」

辞書はここら辺にあるから、よかったら一緒にな。

そう言い残して、店主は元のカウンターの方へ行ってしまった。

ーーー語学は、少しだけならある。

幼い頃、親戚が医者だったことから、よく外国の言葉を学んだものだ。

それも、医学に関するものだったから、ドイツ語やラテン語、英語が主だったが……

読めそうなものはあるだろうか。

俺がここに本を見にきた理由は、Aの鬼の性質について知りたかったからだ。

そもそも西洋の鬼について、俺はほとんど無知だし、Aに聞いてみても、曖昧な部分が多かった。

しかし話を聞いてみれば、どうやら英国の方では鬼の存在というのは公認らしい。

しかも、鬼もきちんとした社会的身分を持っているという話も聞いた。

となれば、洋書で調べてみるのが一番だろうと思ったのだ。

しばらく棚の方に視線を巡らしていると、ある一冊の本が目に止まった。

『vampire』……いかにもな題名のものを見つけ、手に取り、パラパラとめくる。

これにしようか……と、店主のいるカウンターへ向かおうとすると。

「この店？」

「うん。お母さんとはぐれる前は、このお店にいたよ」

どこからか、Aと子供の声が聞こえた。

(続く)