大人の恋 ページ5
ほんの出来心だった。
Aならどうするのかな、って思って、わざと服を破ってAの元へ行くとやっぱり想像した通り修理を引き受けてくれた。
予想外だったのは、Aに裁縫の技術がなかったこと。
でも、マチに聞いてまで俺との約束を守ろうとしてくれている姿が愛しくて仕方ない。
「なんだなんだ？ あの二人、やけに騒がしいじゃねえか」
「女子トークで盛り上がってるんでしょ、変に会話に入ると大変だよフィンクス」
険しい顔をして文句を垂れるフィンクスを宥めていると今度は反対方向からも文句が聞こえてくる。
「騒がしすぎるね、ゆくり休めないよ」
「まあまあ。フェイタンだって拷問中とかあんな感じでテンション上がるでしょ？ それと同じだよきっと」
「なるわけないね。馬鹿か？」
「えらく二人の肩持つじゃねぇかシャル」
「そんなことないよ」
「胡散臭い笑顔ね」
「全くだ。ていうか服どうした？ なんで上半身裸なんだよ」
「破れてたからさ、Aが直してくれるんだって」
白々しく、息を吐く様に嘘を吐いた自分に心底感心する。腹黒さなら他の団員にも負けないだらう。
我ながら幼稚なことしてるなって思うけど、頑なに俺への気持ちを認めないAだから、こうやって少しづつ自覚させていくしかない。
「……ふーん。なるほどねえ」
「ちょっとフィンクスなにニヤついてんのさ」
「はっ、馬鹿馬鹿しいね、勝手にやればいいね」
「え、ちょっと二人共！？ 何か勘違いしてない！？ ねぇちょっと！」
何かを考え込んだかと思えば、自己解決したのか今度は急に怒り出す。
「けっ、付き合ってられるか。解散だ解散！ 俺は出かける」
「私も外出るね」
「なんなんだよもう〜別にやましいことなんて何もないのに……」
そう言うと二人は肩を並べて外へ出て行こうとする。
その後に続いて俺も外は出る。
ふと横目でAの姿を見ると、マチに教わりながら真剣な顔をして服を縫ってくれていた。
その表情がとても美しくて、まるで聖母マリアを思わせるようなその仕草に、出会ってから何度目か分からないが心臓が大きく飛び跳ねる。
なるべく直し易く破ったつもりだったけど、Aには少し難しすぎたみたいだな……Aも早く俺への気持ちを認めちゃえばいいのに。
今すぐ駆け寄って抱き締めたい衝動をぐっと堪え二人の後を追った。
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作者名：咲月 | 作成日時：2020年1月8日 0時
