衝動 #4 ページ32
つまり、私が今まで母だと思っていたのは姪で、祖母だと思っていたのは姉で、曾祖母だと思っていた人こそが私の母だったのか。混乱したままの頭で先を読み進める。
“ヴェルダにはAが死ぬ時に黒い光が現れると伝えた。この子が特別な子だと知ってもらう為に。
暫くして『この巻物があれば皆Aを大切にするでしょ？』と巻物を見せてくれた。
私が聞いたあの話は、今ではもう語り継がれることもなく、私の様な老いぼれのみが知っている夢物語となってしまった。だかそれでいい。この子が好奇の目に晒されぬよう、一人の人間として生きていけるよう祈っている。”
“Aが言葉を喋った。私を母と呼ぶことはないけれど、どんな形であれこの子の成長を見守れることが嬉しい。”
“Aがよく私の部屋へ遊びに来てくれる。イルザやヴェルダはこの子の世話をきちんとしているのだろうか。Aに聞いても笑うだけだ。どうか幸せに暮らしていてほしい。母の願いはそれだけだ。”
“どうやら私の命はそう長くないらしい。後どれだけAの成長を知れるのだろうか。私が居なくなってもどうか、笑って生きていてほしい。悲しみに負けず生きていてほしい。幾度となく出会う死に負けず強く……”
“A、一度でいいから“お母さん”と呼ばれたかった。どうやらもうお別れのようだ。どうか幸せに……愛しているよ。”
そこで日記は終わっていた。
ぼろぼろと溢れる涙。体を震わせ嗚咽を漏らしていた。
私は確かに、母に愛されていたのだ。むしろ母だけが私を心の底から愛してくれていた。
「A？ 大丈夫？」
私の嗚咽を聞いたであろうシャルが慌てて扉を開け、中へ入ってくる。
「シャル、これ……」
そう言い、手にしていた巻物をシャルに渡すとすぐに、私と同じぐらい真剣な表情で巻物を読んでいた。
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作者名：咲月 | 作成日時：2020年1月8日 0時
