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「のんちゃん先生?」
次の日には、脳神経外科の一般病棟に移動。
両親もとりあえずは2人で話し合いたい、と、
新薬についての決断が出るまでは、
入院してもらうことになった。
「ん? なんや?」
そして、入院生活3日目。
モニターもカニューレもすっかり取れて、
身体は自由になったものの、
恐怖心からか、食事を摂れたり摂れなかったりと、
まだ本調子ではない様子。
ベッドを起こしてぼーっとしてることも多いし、
寝てることも多いし。
さらに回診の時に病室を訪ねれば、
俺にこんなことまで言ってきた。
「俺、このまま死んでも、いい気がしてきた。」
は?
思わず耳を疑った。
あれ?聞き間違えかなって。
けど、その表情を見れば一瞬でわかった。
自分の人生を完全に諦めてしまった表情。
悔しさも寂しさもない。
髪の毛も気持ちに合わせるようにぺっちゃんこで、
何もかもを投げ出したようだった。
「廉がそんなん言うん珍しいやん。笑 どうした?」
バイタルをチェックしながら、そう聞き返す。
ほんまはすぐにでも、
そんなこと言うな!って怒ってやりたいけど、
頭ごなしもあかんし、俺も怒るのいややしな。
「新しい薬のことな、聞いてん。 おかんから。
副作用も、がっぺいしょう?も。」
少しこめかみを抑えるような仕草をして、
また話を続ける。
「100万人に1人の病気でほっといたら死ぬ。
薬は副作用に苦しまなあかん。
薬やのにそれで早よ死ぬかもしれへん。」
…なんか素直に、生きたいって、
思われへんくなってきたんよね。
どんだけ生きたいと思っても、
病気と薬には勝たれへんねんから。
そう言った廉は、さらに涼しい顔をした。
死ぬということ。
ほんまになんの怖さも感じていないみたいに。
「…頭痛の点滴オーダーしとくな?」
俺はそんな廉に、
何の声もかけてやれなかった。
30年も医者やって、
何十人もの患者さんに出会ってきたのに、
こんなケースは初めて。
自ら死にたいとか言って、もうどうでもいいって顔して。
ご両親はあんなにも必死に考えてくれてるのに。
久しぶりに家に帰ってもどっかゆっくりできへんくて、
また論文を漁ったりしてしまってた。
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のん(プロフ) - この作品大好きです。素敵な作品をありがとうございます。表現素晴らしいです。涙が止まりません。一瞬でファンになりました。 (2020年7月25日 2時) (レス) id: 56343318d5 (このIDを非表示/違反報告)
ごま - 声出して泣くくらい本当に号泣です。素敵な作品に出会えてよかったです!ありがとうございます。 (2020年5月10日 1時) (レス) id: d07563048d (このIDを非表示/違反報告)
いっちゃん(プロフ) - 初めまして!久々に小説で号泣しました。友人に勧めたくなるくらい素晴らしいお話に出逢いました。ありがとうございました。 (2020年5月6日 17時) (レス) id: a6f24fa91f (このIDを非表示/違反報告)
蜜柑(プロフ) - はじめまして、知り合いに勧められて一気に読みました。途中から涙が止まらなくて、親には心配されました笑多分何回もまた読みに来ると思います、最高の作品でした。作者さんの他の作品も読んでみますね。素敵な作品をありがとうございました。 (2020年5月5日 9時) (レス) id: f84ebdac68 (このIDを非表示/違反報告)
たぁ(プロフ) - こんにちは。もう一度読みたくなってきちゃいました笑 ほんとにこの作品素晴らしいです>_< 何度涙を流したことか…最高の作品をありがとうございます。 (2020年5月4日 17時) (レス) id: 4b1a527b81 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:茉都香 x他1人 | 作成日時:2017年1月4日 18時