四話 ページ4
時刻はちょうど昼の十二時。
パトカーの運転席に座り、バックミラーごしに富岡チトセが乗り込んだのを確認してからふと彼女の首にさがる十字架に目がいく。
「キリスト教の学校？」
「そうなんです」
「へえ、じゃあやっぱりお嬢様みたいな感じだったりするのかな。女子校だし大人しい子が多そう」
「女子校に夢持っちゃ駄目ですよ。本当に大人しい子なんて一握りですから。あ」
唐突に何かを思い出したように鞄を開けると中から一枚の手紙らしきものを取り出して渡してきた。
「ごめんなさい、これも渡すように言われてました」
「ん？」
「誰宛かは分からないんですけど……『ついでに藤堂正樹とかいう二十八のガキ刑事に渡してくれないかな』って言われて」
「ありがとう、俺のことだよ」
平静を保って言ったものの、心の中ではあの教祖の頭を蹴り飛ばしたい気持ちでいっぱいだった。
まずいつから年齢知ってたんだあいつ！ しかも二十八を『ガキ』呼ばわりとは一体お前はどれだけ歳食ってるんでしょうかねぇ？
「あとその手紙、『誰もいないところで読んでほしい、誰にも見せるな』って言ってました」
「わかった」
とはいえ勿論『誰にも見せない』訳にはいかないのだが。
そこで彼女を送らなければいけないことを思い出し、慌ててアクセルを踏んだ。
それにしても、何故自分なのだろう。教祖と名のつく人間とは面識なんてなかったはずだ。これまで知り合った内の誰かだとすれば一体……。
車を走らせて三十分後、ようやく前方に校舎が見えてきた。そこで不可解なことに気づく。
「あれ？ 君、寮に住んでるって言ってたよね」
「はい」
「事情聴取の時、『朝八時に家を出た』って言ってたけど」
「あ、実は今日から寮で生活することになったので。それまでは普通に家から通ってました」
「そうなんだ」
裏門の前に着いてから車を止め、彼女が校舎内に入るまで見送ることにする。と、中から女子生徒が出てきて富岡チトセと親しげに話し始める。
「美沙、何か買いに行くの？」
「うん。いろいろ訊かれた？」
「まあね。殺人鬼がうろついてるかもだから気をつけてね。いや一人じゃ危ないからついていくよ」
「本当？ ごめんね」
「全然。むしろ私も何か買いたい」
やはり、とても担任教師が殺されたとは思えないほど二人の会話は明るいものだった。
警察署に戻ってから誰もいない部屋で手紙を開く。一行読んでから、目が離せなくなった。
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作者名：田無苑珠 | 作成日時：2017年4月21日 20時
