一話 ページ1
『殺人鬼を見た』
騒動のきっかけはとある女子高で富岡チトセという生徒が何気なく友人にそう話したことだった。
彼女は朝八時に急いで家を出て、近道しようといつもは滅多に近づくことのない路地裏を通ったと言っていた。そこで偶然仮面をつけた黒いレインコート姿の男がナイフを片手に死体を見下ろしている現場に遭遇したのだ。
彼女が教室に駆け込んでこの話をしたのは授業が始まるギリギリの時間帯で、尚且つ友人共に最前列の席だったため後に入室してきた教師を通じて学校中にすぐに知れ渡ることとなり、一時パニックに陥ることとなる。そしてその数分後に彼女の通った路地裏で両目のない女の死体が見つかった。それだけでなく、殺された被害者は高野律子という教師であることが明らかになった。事件が起きる前まで彼女は富岡チトセのクラスを担当していたらしい。騒動の奇妙な点の一つはクラスのほぼ全員が担任教師が殺されたこと自体に関しては何の感慨もなかったことだ。それは真っ先に目撃した富岡チトセも例外ではなかった。
今僕は彼女の事情聴取を行っている。彼女はむしろこの事件を楽しんでいるようにも見えた。時折笑みを浮かべることさえある。それがただの思い出し笑いなのか今回のことに対して何か思うところがあるのかまだ分からない。
「そのレインコートの男はどの辺りに逃げたか分かるかな?」
僕はあえてそう訊いた。近隣に住む人は誰も何か怪しいものを見たというような証言はしていない。もし逃げて行ったのなら何かしらの情報があってもおかしくないはずだ。犯人が『逃げていない』のにわざとそう尋ねたのは彼女が虚偽の証言をする可能性もあったからだ。だが彼女は気味が悪いほど明細に語り出した。
「逃げようと思いました。けれど『頼みを聞いてくれ』と言うのでその場に留まりました。『このことを吹聴してほしい』ってその人が言ったんです。『君の学校の教師やクラスメイトの出来る限り全員にこの犯行を言いふらしてほしい。この女は生贄になったんだ』と言ってました。下手に断って何かされるのも怖いのでその通りにしました。それと『何か質問ある?』と訊いてきたから何で両目を奪ったのか訊いたんです」
「男は何て言ってた?」
「『探している物がある。それはこの女のでは到底程遠い。だが折角殺したのだから貰って行かないのも勿体ないので抉っただけだ』と言ってました」
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作者名:田無苑珠 | 作成日時:2017年4月21日 20時