止まらない、止まれない【usss】 (ページ22)

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これから旅行でも行くのかと言う程大きなキャリーケースに衣服や、課題等大事な物を詰め込み、通学時間になった瞬間にそーっと部屋から出ようとした時、ガコッとドアが何かに当たる音がした。

ふと音のした方を見ると、お盆の上におにぎりが四つと、小さなメモ用紙がぽつんと置いてあった。

二人で食べて下さい。気をつけてね母より

簡素な文章だったが、その母からの言葉に心がきゅうっと締め付けられ、メモ用紙の端を親指でぐっと握った。

何故、こういう時に優しくしてくるのだろうか。

いっそ、父親と同じく一蹴してくれれば良いのに。

坂田が大丈夫？と心配してくれたが、大丈夫だと、目の端を服の裾でごしごしと拭き、頷いた。

おにぎりを坂田に二つ渡し、残りを、いただきます。と言いバッグに入れた。

静かに家を出た私達は、大学へと向かった。

慣れないキャリーケースを引き、何回か躓きそうになりながらも、何とか大学の門前へと着いた私と坂田は、異様な光景を目にした。

「…何か今日は、イチャついてる奴が多いな…？」

坂田のボソッと呟いた言葉に、こくりと頷いた。

学内のカップルというカップルが、彼方此方でイチャつきあっていた。

その光景は見るに耐えず、下を向きながら教室の近くまで進んだ突き当たりで、ふと目線を上げると、先の方に見えた同じ学科の友人。

その横には、私の知らない男性。

「あ、おはよう」

「Aじゃん！おはよ！」

「…その人、彼氏？」

妙に友人と距離感の近い男性を見て、尋ねるとそうだよと一言。

「お前誰？」

「えっ、坂田です」

「俺の彼女を下心ある目で見てんじゃねえよ」

「は！？いやいやいや、一切そんな事有りませんけど！？」

坂田は、友人の彼氏に絡まれて、盛大に首を大きく横に振っていた。

取り敢えず行こう、と坂田を引っ張り、友人にまた後でと告げる。

「何やあいつ…！Aの友達とは言え、俺からしたら見ず知らずの子を突然狙う訳がないやろ！」

昨日から災難や、と坂田はまた巻き込まれたと肩を落とす。

あの男の独占欲が強いのだろうか、と思ったが、この異様な光景に通ずる物を思い出した。

両親だ。

そう言えば、父親も坂田に対しての敵意が剥き出しだった。

パッと後ろを振り返り友人達を見ると、二人共目をとろんとさせながら、口と口が今にもくっつきそうな距離で抱きしめ合いながら会話をしていた。

フラッシュバックした朝の光景に、一瞬咽せそうになった。

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