ウェンティと魈 ページ9
知るのは名前だけで知らない場所に向かっていると、気が付くと横に緑色の少年がいた。わたしの手をさり気無く握り、嬉しそうににこにこしている。
「ねえ、今日はどこに行くの？ボクも行くよ！」
次第に腕にしがみ付くような体勢になり、密着が増す。歩きにくいからやめて欲しい。
「いつもツンツンした表情だけど、笑った君の方が可愛いよ？」
「ボク以外によく向けてるよね」と続けた。どういう意味だと思いつつ、目的地へ向かう。璃月の大きな港で、お酒を買う。親戚が遊びに来るから、一応と。モンドのお酒も良いけど、たまには趣向を凝らすのも悪く無い。
「お酒！？ボクの分は？」
自分で買えば良い。
無銭飲食を繰り返すと友人のディルックから聞いており、付け上がらせない為だ。むすっとしたウェンティがついて来ながらも、モンドへの帰路につく。途中で曲がりくねった入り組んだ道を進んだおかげで、ウェンティと逸れることができた。
「A……だけか」
急に目の前に、先日知り合ったばかりの魈が現れた。音も立てずにでびっくりした。
彼と出会ったのはわたしが貴重な食材を手に入れる最中で崖から落ちた時、キャッチしてもらったことからだ。それ以来、時折の交流が生まれた。
「我の名を呼べ、さすれば助太刀する」
ありがたいお言葉だけど、そんな事態はない。彼との初対面の時みたいなことにはなってないから。自分でできる範囲はしたいと告げた後に、お礼を述べる。すると、金色の目を見開いて顔を横にずらした。
「お前の為になりたいだけだ……我のみ頼れ、そして我以外を受け入れるな……」
少し不穏な言葉が見え隠れして、耳を疑う。小声だから、聞き取れなかっただけだ。
「煩悩が生まれた仙人だ、彼女と何をしてるの？」
背後から声が聞こえて振り向くと、ウェンティが立っていた。敵意のこもった眼差しで、魈を見ている。
「煩悩、か。そうか、独占欲は当てはまるだろう」
「へえ、Aに対してそんな欲望があるんだ。邪仙になるよ？」
「お前も言えた口か？見た限り、怪訝な彼女に毎日付き纏っているようだが」
「うん。好きな子といるのは楽しいからね、一挙一動も全表情も把握したい。今はツンツンしてるけど、いつかはボク以外に見せない笑顔に変えたいな。後は牽制かな？君みたいな害虫を寄せ付けない為だよ」
気が付くと、前後に少年が立つ。前には手首を掴む魈で後ろには抱き付くウェンティ。
彼らの雰囲気が不穏過ぎて、冷や汗しか流れなかった。
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