放浪者 ページ7
目で追いかける、この言葉がぴったりな状況ができあがってしまうことが増えきた。
好きで追いかけている訳では無いが、Aにイヤに目が向く。変な魔法でもかけてるのかと思うくらいにだが、アイツにそんな頭も度胸もないのも知っている。
「……知らない人にプレゼントされたんだ、へえ」
彼女の手には、小物入れがあった。にこにこしながら僕に見せる。
知ってる、さっき見た。それより、その知らない人はAが目当てだ。下心がなきゃ、近寄らないだろうに。
「捨てた方が良い、ろくでもない物が付いてたら堪ったもんじゃないだろう」
僕の提案に、相手の厚意を捨てたく無いと言う。危機が薄いし、何よりその感情が腹立つ。
「捨てるまで口を聞いてやらないからな」
そっぽを向いて、顔を見ないようにする。今のAの顔を見たら、自分でも何をするのか分からなくなりそうだった。
しばらく、後ろでは唸るような声や僕を呼ぶ声が聞こえる。全て聞こえないふりをして、ふつふつ内心に湧き上がる怒りに似た気持ちを感じ取る。
「……上出来、ではないが及第点」
数時間後には、小物入れを捨てて来たと悲しそうな声色で言うA。そのまま声の方に向けば、本当に手元には先程の小物入れが無かった。ただ、悲しそうな彼女だけがいた。
それに対して妙な優越感に似たものが湧き上がり、顔が綻ぶ。
「ああ、そうだ。僕の言う通りにすれば良いんだ、さすれば悪い結果は無いよ」
僕と彼女が悪くなければ、後はどうなったって良い。周りなんか知るか、どうでも良いに決まっている。こんなに晴れやかな気持ちなら、彼女も内心はきっとそうだろう。
「……ずっとめそめそしないでくれる？後で好きな物を買ってやるからさ」
いつまで経ってもうじうじしているAに、妙に腹が立つ。彼女が他のものに対して感情を向けている、僕を他所にした。それがとても許せない、僕を無視するなこの馬鹿者。
「ねえ、そんなにさっきの輩から貰った物が良かったのかい？近くにいる僕をずっと蔑ろにして、そんなに楽しいのかい？」
腹が立つ、何で思い通りにならないんだ。今までで一番気持ち悪い感情に包まれている。
「……ふん、もう好きにすれば良いさ」
そのまま歩き去ろうとしたら、突然腕を掴まれる。目線を向けると、僕を必死に止めるAがいた。何度も何度も、僕に謝っている。
「謝って済む話じゃないけど……許さないこともない」
このまま僕だけに感情を向けてくれ。
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