ウェンティ ページ5
「やっほーA！ボクと遊ぼ？」
さっき開けたばかりの窓から颯爽と現れる、緑色の少年。そして悪びれも無く、わたしにすごい勢いで飛び付く。いくらわたしより背丈の低い少年と言えども、いきなり飛び付かれたらバランスを崩す。何とか近場の机に手を付けて床とごっつんこすることを回避した。でも手の平と手首がすごく痛い。
「わっ、大丈夫？」
誰のせいだ、誰の！
体勢を立て直して、机から離れる。そして、自分にしがみ付いたままの少年を剥がそうとする。しかし、すごく力強くて離れない。本当に少年かと疑いたくなったが、腰からぶら下がっている神の目が普通の人間では無いと物語っている。
「どうしてボクの熱い抱擁を受け止められないの？何でさあ……」
めそめそしだす緑色の少年に罪悪感を一瞬抱いたが、すぐにただ飯やらただ飲みやらの光景を思い出してムカついてきた。やっぱり許さない、そしてとっとと帰れ。どこに帰るか知らないけど、風来坊で愛嬌たっぷりな彼なら生き残れるだろう。後は知らないけど。
「イヤだよ……ボクがどうして毎日君の元に来ているか分かってるの……？」
普通にお酒をがぶがぶ飲んでいる相手が、こんな潤んだ目で見られると躊躇いが生まれる。見た目だけは綺麗な少年だから尚更だけど、自分には関係ない。下手をしたら一日中隣にいるような存在だ、騙されるな。
「ボク、君の前だけではちゃんと本当のことを言っているんだよ……嘘は一回も言ったことないよ……」
まるで常日頃に嘘を吐いているみたいな言い草だけど、のらりくらりで掴み所の無い飄々とした少年だからそれすら虚言ではないかどうかは怪しい。言葉巧みな所も時々あるし、逃げ足も速いってアカツキワイナリーの人たちが言ってた。
「―――じゃあ、その身をもってボクの気持でも味わう？」
しがみ付いたままの少年が、急に視界の前に現れた。ちょっと痛みが残っている手首を押さえ込まれて、抵抗すらままならない。そして、背中の感触で押し倒されていたのだと気付いた。
「寿命は違う者同士だけど、それでも一緒にいたい。Aが生きている記憶を、いっぱい覚えていたい。何千年経っても、大事にしていたい記憶にするんだ」
さっきからスケールが大き過ぎる話ばかりで、頭が追い付かない。その間も、綺麗な顔が迫って来る。青緑色の瞳がわたしを映している光景が見える。
「神様って、身勝手だけどとても愛情深いんだよ？だから、君のことはたぁんと愛してあげる」
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