フリーナ ページ17
僕にはよく話す相手がいた。その相手はAと名乗った。神様の僕に臆することもやけに崇拝じみた行為をすることはなく、ただ僕の傍で僕の話を聞いていた。
「やあ、A。今日もまた僕の話を聞かせよう。なに、内容は被らないさ。数えきれない年も生きているのだから、そう被ることは無い」
彼女の用意したケーキや紅茶は、僕が常に食している物とは違って簡素な味が特徴的だった。当時はあった製菓店のもの。いつも僕が食べている物は、有名な料理人が作った美味で美しい装飾のあるスイーツ。紅茶もそんな感じで、比較するのはどうかと思う物であった。それでも彼女との話があったら、そんなのは気にならないものになる。
「本当に君のつぼは浅かったね、すぐ笑うんだもの。まあ、構わないさ。僕はそういう君の顔も見ても、不快と一切思ったことは無いんだ」
喜怒哀楽の内、怒りは出さなかった。後は全部、僕の話で引き出せた。彼女の怒りを吐き出させたいなんて思わなかった。だって、それで逢わなくなったら元も子もない。
「そっちは退屈じゃないかい？ああ、今の君を軽蔑してはいない。勿論、前の君も少しもそう思ったことは無い。ただ、ちょっと気になってさ」
僕には永劫的に向かえない場所、彼女はそこで静かに佇んでいるのだろうか。それは退屈ではないのだろうか。
元から静かな場所で静かに暮らしていたから、そこまで苦じゃないのかもしれない。でも、僕はそんな彼女とは正反対な生活を送ってきた。それでも馬が合って、会話もとても弾んだ。穏やかな時間がとても愛おしかった。同時に、彼女も、Aも、愛おしかった。
「聞かせてくれないかい？僕はいつになったら、君にまた逢えるのかい……？このままだと、君を酷い人間って認識するしか出来ないよ……？」
君と逢えなくなり、何百年も経った。流石に友達の僕を放っておくには時間が長すぎる。薄情な人間だったんだ。
でも、僕は今でもAの笑った顔や困った顔、菓子を頬張って幸せそうに朗らかに微笑む姿、少し難しそうに僕の話を聞く姿を鮮明に思い出せる程に大切な記憶としてある。全部が全部、愛おしく映ったのは君が最初で最後。そんな気持ちにさせておいて、君だけはいなくなるのかい。
「また逢いたい……お願い……君の姿をもう一度……この視界に収めたい……」
永遠に叶わない夢を、神に抱かせるなんて。君は愛おしくて、なんて罪な人だ。でも僕は、愛おしい人が眠る墓前で頬を濡らすしかできないんだ。
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