鍾離 ページ12
テイワット大陸に初めて来た時に訪れた国は、古き良き中華な雰囲気を感じる璃月だった。
初めて出会った人は、店の軒下で座って本を読んでいる高身長な青年であった。金色の眼差しに向かう本の頁は、一定間隔でぱらぱらと捲れていく。悠々とした姿や威厳溢れる雰囲気に、思わず目を奪われる程に素晴らしい光景に感じられた。
「お嬢さん、俺を見ているがどうしたんだ」
ふと顔を上げて、その金色の何かを達観したような静かで雄大な瞳を向けてくる。それが第一声で、その人こと鍾離さんとの交流が始まった。彼の話はこの世界に来たばかりのわたしにとっては難しい話が多かったが、この土地に慣れる内に分かりやすいお話へと変わっていった。特にお金ことモラの話にはとてもお世話になった。ただ、璃月にいる間はモラと堂々と言えなかったけど。
「こちらとしても、Aに対して話している時が非常に楽しい……久方振りの感覚だ」
何だか嬉しいこと言ってくれるけど、そろそろお金が目標金額まで貯まりそうなのでテイワットを離れようと思っていた。他の国もあるから行きたいけども、一旦故郷に戻って少しゆっくりしていきたい。その後は、別の世界や大陸に旅立つ予定だ。
それにわたしの命も、この国ではお伽噺として広まっているお話の中に現れる仙人や神様みたいに長くも無いし普通の何かあれば人間だ。だから、できるだけ色んな世界をこの目で見て行きたい。だから、もう出るつもり。
その話を、目を閉じて静かに訊いていた。今まで散々お世話になったから、言うのは心苦しかった。
「この国は契約が要となっている。俺はAに一方的に契約を交わしてしまった」
多分、きっと世話をかけた相手として見られているからだろう。それだから、何を求められるのか分からない。しかし、「手を出してくれ」と言われただけなので手を出した。すると手首を握られて、体の中に何かを入れ込まれる感覚がした。気持ち悪くて、目が回ってきて頭が割れそうな程で吐き出しそうになる。
「これで良い、互いの契約は結ばれた」
―――あれ、何をしようとしたんだっけ。あれ、何で鍾離さんがわたしの手首を掴んでいるんだろうか。ちょっといたいよ。
「ああ、何でもない。今日も―――いや、永らくも共にいてくれるだろうか？」
もちろん、ずっといたい。だって、とてもためになるはなしをしてくれるうえにとてもたのしいひとだから。鍾離さんもそうおもってほしいな、わたしだけだったらかなしいよね。
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