甘雨 ページ11
「今日は良いことがあったんですよ、帝君がわざわざ私の元へと足を運んでくださって……ええ、お褒めの言葉を頂いたのです」
部屋にある真っ白で清潔感溢れるベッドの中で、小さな寝息を立てて目を閉ざしている女性であるAさんに話しかけます。今は少し起きないだけで、いつか起きてくれると優しそうな雰囲気のお医者様があの時教えてくれました。
「私、少しずつですけどこの人々の住まう世界に馴染んできてるとお言葉も頂けて……あ、もちろん、この角は飾り物ですよ！？」
貴女に対してだと、言いたいことがいっぱいあって頭の整理ができなくなります。やはり、私を誰よりも一番に初めて帝君以外に理解してくれようとしたお方だからでしょうか。
食べ過ぎちゃう私の癖を治せるようにと一緒に考えてくれたり、本物の角を見ても不気味な顔をしなかったり怖がらなかったり、璃月の人々の中だと結構高い位に就かせてもらっている私でも遠慮なく接して頂けたり。
「私ばかり話しちゃって……ごめんなさい、貴女にはついたくさん話しちゃいます。今すぐ目覚めて、私に向かってたくさん話しかけても良いんですよ？今まで見てきた夢の話とか、私に対する文句でも……そうです、何でも良いんですよ？」
それでも反応は無いのです、いつも通りに眠り続けるのみ。
そろそろ起きていただけないと悲しくて仕方がなくなっちゃいますよ、数千年生きてきた私で今まで一人に対してこんなに想ったことすらなかったのにですよ。おかしな話ですよ？
「連れて行きたい所がいっぱいあるんです、璃月の絶景もなんですが他の土地に行きたいです。風が気持ち良くてお酒が美味しいモンド、暖かくて自然豊かなスメール、水が美しくて凝っているお料理の多いフォンテーヌとか……そこで、Aさんといっぱい色んなことをしたいんです。食べたり遊んだり……一方的ではなくお互いにたくさん話したいんです……！」
貴女が仕事中に高所から落ちて意識を失い、572日が経ちました。一年以上も貴女を待っています。
「……そうだ、起きてくださったらすぐに私の秘密を教えちゃいます。貴女に嫌われたくなくて言えなかったんですが、秘密はいけませんよね」
起きてください、また私に愛らしく守りたいと強く思える笑顔を見せてください。
「……私の名前をまた呼んでくださるその日まで……貴女のお目覚めを、恋しくずっと待っています……」
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