EWの短編集 4

エル(ELLSWORLD) ページ5

風が強い日の中で、エルが約束の物を持ってやって来た。お礼を言いながら荷物を受け取り、ブラシと手鏡を変わりに渡した。
手鏡を手にして鏡面を見た瞬間、自身の髪に対しての悲鳴を小さく上げた。一気に顔を赤らめ、テーブルの上にある小物に手鏡を立てかけてボサボサの髪にブラシを通した。おさげを作っているヘアスタイルなので、簡単に髪を下ろしてそこも手入れを始めた。こげ茶色の髪は先程までの外の強い風に煽られてややぼさぼさになっているが、それでも綺麗に艶を放っている。物珍しさから、気付くと彼女の髪に触れた。

「きゃあっ！？え、何してるの……？」

案の定、驚いてしまった。突然触れたことを謝って手を引っ込めようとしたが、その前にエルによってその手首を握られた。驚いて見つめていたが、赤い顔ながらもこちらとじいっと見つめる彼女が見える。お互いに見つめ合って、ちょっと変な感じだ。

「べ、別に気にしてないわ……興味があるんでしょ？Aなら撫でて良いわよ。好きなだけ、ね？」

髪を下ろすエルは初めてで、興味がわいたのは本当だ。頷くと、少し照れ臭そうにはにかんでわたしの手をそっとこげ茶色の綺麗な髪に移動させた。
本人の許可が下りたので遠慮なく、手の平だけでなく指先も使う。先程までブラッシングされてたから、指通しがとても良くさらさらしてかなりの触り心地と分かる。わたしに触れられている彼女は、若干恍惚そうな表情でいた。撫でられてこんな顔をされるのは生まれて初めてで、途中から困惑が強くなった。そんな目で見ていたら、むこうは口を開けた。

「あなたから触るってなかなかあることじゃないから、嬉しくって」

嬉しそうに語る彼女によって、また手が移動する。今度は赤らんだ相手の頬で、撫でるように動かされていた。こっちも熱に浮かばされそうな程に熱くて、同時に顔も近付いて来て混乱が増す。

「知らない私が1つ消えた？うふふ。それって嬉しいわ、私を全部知ることに前進してるのよね」

急に妖艶な雰囲気が漂い、目が眩みそうになる。窓が強風を受けてかたかた鳴る音などで何とか踏ん張って我に返るが、今度はこっちに手を伸ばして来た。

「しばらく居ても良い？帰ると惜しいし、まだ居たいし……それに、私をいっそのこと今日で全部知ってみる？」

何も言えなくて、知らぬ内に熱くなっていく顔で彼女をただただ見つめるしかできない。


「強風で帰れないの。私だけじゃなくて、あなたのことも全部教えてちょうだい？」

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