EWの短編集 4

トムとトム(Future) ページ19

相手の親友程ではないが、それなりに仲が良い友達のトムと待ち合わせをしていると、目の前にバイザーを付けた男性が近寄って来た。わたしを見る電子の眼差しは、少し驚いたようにも見える。しかし、次には電光掲示でありながらも慈しみに溢れるようなものに変わった。

「無意識で来たが……今、こうしてアンタに逢えていることは幸運に思う」

突然優しく手を握られ、待ち合わせをしている青年より少し背の高くそっくりな髪型と顔立ちをしている人を驚きだけで見上げる。所作や雰囲気が丸っきり彼と被っている。この世にはそっくりさんが3人いると言われているが、もしかしたらその現象に鉢合わせているかもしれない。

「A、誰と話してんだ―――はっ！？」
「ああ、俺か。見たところはまだ目は無事か」
「だから何の話をしてんだよ？今はそうじゃない、何でまた急に現れやがった？挙句の果てにゃ、手を出してるがどういうことだ？」

わたしたちに割り込んで、繋がる手たちを引き剝がそうとする。しかし、相手の方が力が強いのか全然離れない。痛くない程度に手を握られ、力加減の感心してしまう。
それより、彼らが言い合う内容は自分自身と言っているように感じられた。

「過去のAに逢いに来ただけだ」
「向こうにもいるんじゃねえのか？わざわざ、こっちじゃなくとも良いだろ」
「タイムパラドックスさえ起こさなければ、リーダーは許しているぞ」

急にSFな話題が飛び、意味が分からなくなる。今近くにいる男性が未来からやって来たトムと、何度も考えた末に理解できた。だけど信じるかは別問題。

「確かに、未来のAも捨て難いが……この時代のAを見たかった。何より、彼女は俺の―――」
「！わっ、分かったからそれ以上は言うな！とっとと手を放せ！馬鹿野郎！」

急に頬をやや赤らめたトムが、彼の言葉をそれ以上言わせないように言葉を割り込ませた。後半は悪口に走った。
むこうが何を言おうとしたのかが気になったが、未来から来たらしいトムはわたしから手を放した。安堵したのも束の間、片手だけなかなか放さない。と思ったら、手の甲に口元を近付けて唇と自分の皮ふが当たった。

「逢えて良かった、ありがとう。未来でも、俺と仲良くしてくれよ」

直後、優しく手を放してどこかに行った。まるで白昼夢を見たようで、呆気にとられたままだ。一方、横の青年はどこか葉を食いしばって怒っているようだ。


「俺がAが好きとバレる言動を取りやがって……！」

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