EWの短編集 4

ラリー ページ11

※リクエスト



ここに暮らし始めて何日が経ったのか、時計があるだけで日にちは分からない。カレンダーが無いから、そういう感覚は消え失せた。外もラリーに言われたから、全然出てない。
別に良い、彼といることができるならそれ以上は要らない。傍にある、自分よりちょっと大きな手を取る。そして手の平同士をぴったり当てて、指を絡める様を眺める。

「俺と手を握るのが好きだな。俺も好きだから、別にどうされても構わん」

とてもとても満ち足りた気分になれる。常日頃の大事にしてくれていっぱいになっているのもあるけど、触れ合うことでもっと心がぽかぽかする。春夢を見ている気がする程に、とても儚くて大事な日々を過ごす感覚だ。

「今日は用事は作っていない、寂しい思いをさせなくて済む」

映画製作の助手の彼が帰って来るまで、1人で居るのは寂しい。だから、さっきの発言はとても嬉しい。そして、今日はずっと一緒にいて欲しいと伝える。彼も常に言ってくれているけど、自分の意思は改めて伝えたかった。すると、むこうは当たり前だと言わんばかりの表情になった。

「Aから離れるなんて恐ろしいこと言うんじゃない、いつもここで帰りを待っているお前を考えるだけで胸がいっぱいになるんだ。実物を見たら、それ以上の幸福感よりも至上の感情を得られる。そんな勿体無いことする訳無いだろう？」

後半から少しずつ照れた声色と表情になって、片目だけでも素敵な雰囲気を作り出している。片方の手で、彼の顔に手を伸ばして頬を撫でた。今強固に繋いでいた手も放してもらって、彼のもう片方の空いている頬に手を伸ばす。

「やけに甘えたがりだが、もしかしてまだ寂しさが残っているのか？」

頬に添えていた手の内の一つを軽く取られて、ちょっとだけ強く引っ張られた。驚いている間にも、彼の腕の中で抱き締められていた。

「しばらく監督もどきに振り回され続け、Aとの触れ合いが無くなっていた。故に、俺も物足りない」

体を離されて、掴んだままの手を取り直して手の甲に口付けを落とした。その後、顔をゆっくり上げてわたしを見詰めた。すごくドキドキする、

「共に心行くまで疲れ切るまで、触れ合おう。なあ、A」

閉ざされたこの大好きな世界で、大好きな人と命尽きるまで共に過ごせるならと何度も考えた。それができたら、どれ程までに幸せなことだろうか。だから、今の幸せな時間を噛みしめることしか考えられないんだ。

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