EWの短編集 4

トムとマット ページ1

今日も今日とて、関わりたく無い破天荒で脳内子どもな青年が来る。わたしを見る目は、時々崇拝チックなものに近くて怖い。それが嫌で避けるけど、むこうが見付けてむりに近寄る。

「ホントに幸せ！今日もAといられるなんて！すごく心がポカポカするんだ」

恍惚な表情で、わたしの片手を自身の両手でがっちり握る。ちょっと緊張しているのか汗ばんでいる気がするし、徐々に力が強くなってきて痛くて悲鳴を上げた。

「Aを痛め付けて何が楽しい？悪趣味にも程があんだろ」
「違うもん、Aを触りたかっただけだもん」
「悲鳴を上げさせたのはどこのどいつだよ、ったく……」

トムに強固に結ばれた手たちを易々と離してもらえた。安堵してお礼を言うと、少し顔を赤らめて頬を軽くかいた。

「当たり前だろ、恋人を助けるのは俺の役目だしな」

言い放たれた言葉に耳を疑う。
わたしって、トムと付き合ってたっけ？そんな記憶も歴史もないはずだけど？あれ？どうして？
一気に2人が別ベクトルで怖くなって、彼らをまともに見れなくなった。足が震えながらも、言い合う彼らから距離を取る。

「ボクのためにいる彼女をキミのものって言わないでよ！」
「お前には言われたかねぇよ。他人様の彼女に手出して、偶像崇拝する程に落ちぶれたヤツがな」
「恋人はいないって聞いたよ、キミこそなんなの？」

突然トムが近寄って来て、わたしの腕を優しく掴んだ。驚いて、体がすごい勢いで跳ねて目が大きく見開いた。

「勝手に祭り上げられて怖い気持ちは分かるが、俺がいるから逃げるなよ？」

彼は優しい手つきで頭を撫でてくるが、頭を必死に振って払いのける。要らない、触らないで。拒絶でぶんぶん首を横に振る。

「さっきから変だな……怖いのか？」
「彼女がかわいそうだから、もう触らないでよ！」

マットは珍しく怒りで声を張り上げていた。そして、トムを押し退けた。

「ボクの大事な人を怖がらせないで！怖がる顔もカワイイけど、ボクを優しく見るメガミのようなAが1番好き！ボクをいつも助けてくれる人なんだから、そっちも変なこと言わないで！」

わたしの手を取りながら、トムから距離を取るマット。珍しく長く怒っていた。

「お前は異常な執着してるって気付いてるか？俺らはれっきとした恋人関係だ。お前が付け入る隙なんてないんだよ」

立ち上がって、マットに詰め寄る怒気の含んだ声のトム。彼らの目にはわたしがどう映っているのか、知る由も無い程に恐ろしい。

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