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『虫さん、早いね』
「ごめんね、仕事終わりに呼び出しちゃって」
『ううん、大丈夫。行こうか』
沙耶ちゃん経由でAちゃんの連絡先を聞き出した僕たちは、包み隠すことはないだろうとりょうくんに知られずに会って話したいことがあると言って彼女を呼び出した。女性1人に対して男が3人もいるといくら面識があっても威圧的に捉えられるだろうと僕だけがAちゃんと会うことにした。
『…大体の予想はついてるつもり。ゆめくんにこの間のこと聞いたんだよね』
「あ、別にAちゃんを責めたくて呼び出したんじゃないんだよ。ただ…君の真意を聞きたくて。りょうもとしみつも…勿論君も、大切な友人だと思ってるから」
今にも泣きそうに眉を顰める彼女はゆっくりと息を吐いて顔を上げた。その顔は何かを決意したような表情で、僕自身どきりとした。あまりに真っ直ぐで強い瞳だったから。
『私は、りょうくんが好きだと思ったから気持ちに応えた。幸せに出来るならそうしたいし、一緒に幸せになれたらそんな素敵なことはないなって思ったから』
「…」
『その選択は間違ってないって、胸を張って言える。りょうくんは本当に素敵な人で、いつも私に優しくしてくれて、愛してくれる』
「Aちゃん…」
強かった瞳の色が徐々に揺れ始め、とうとう我慢が出来なくなったのか一筋、二筋と頬に線を作る。それでも逸らされることのない瞳に、僕は彼女の名前を呼ぶことしかできない。
『としくんは…っ、本当に良い友達だと思ってる。一緒に居て楽しいし、気を遣わなくていいし、本音を言えない私の心にもズカズカと踏み込んでくれる… 失いたくない人、』
「それは…っ」
『りょうくんと天秤にかけたわけじゃない、それだけは信じて欲しい…っ、でも私、は…！弱いから…愛されたかったの、誰かに…っ』
これを彼女のエゴだというのなら、そうかもしれないと思う冷めた自分もいる。それでもこれまでに聞いてきた彼女の恋愛遍歴を辿ると、自己肯定感の低い彼女が誰かに愛される事や必要とされることを渇望していることも、その欲に走ってりょうくんを選んだことも、非難できるわけがなかった。彼女が天秤にかけたのは、2人ではなく自分の欲と愛情だった。
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夜宵(プロフ) - 蒼姫さんの作品を遡って読んでいたらこの作品にたどり着きました。いい意味でオチが全然見えなくて、ハラハラしながら読み切ってしまいました。蒼姫さんのペースで構いませんので、完結まで楽しみにしています。 (2020年5月8日 19時) (
レス) id: af02700ee8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名：蒼姫 | 作成日時：2019年8月22日 13時
