15 ページ15
「A…！」
『あ、りょうくん。ごめんね、忙しいのに…』
勢いよく処置室の扉を開けると、診察台に座った彼女が苦笑している。乱れた呼吸も整えず駆け寄れば、上気した俺の頬を撫でながら申し訳なさそうにそう言った。
『…骨は折れてないんだけど、靭帯痛めてるからとりあえず2週間安静だって。反対足も怪我しちゃって立てなかったからどうしても1人じゃ帰れなくて』
「そっか…」
『仕事中だったよね、ごめんね？こっちじゃ頼れる人いなくて』
「いや、それはいいんだけど…」
車椅子で車まで移動して助手席に移らせて、付き添ってくれた看護師さんに頭を下げて車に乗った。終始声色は明るくそう話す彼女は処置室を出てから一度もこちらを見ようとはしなかった。
『自分の病院に搬送されるって恥ずかしかったぁ！救急車だって初めて乗ったもん。ドキドキした！』
「A…」
『りょうくんには話したっけ？私整形外科だからさ、見てくれた先生も顔見知りなのね。何したのーって言われちゃった』
「Aっ」
車を路肩に停めて彼女を振り返れば、俯いて力一杯に両手を握っているのか血色はなく真っ白だった。出来るだけ優しく肩に触れこちらを向かせると、目にはいっぱいの涙が溜まってる。傷付けないよう目尻を拭えば、徐々に眉を寄せて唇を食いしばる。
『なんかっ…りょうくんの顔見たら、安心しちゃってっ、』
「うん、大丈夫だよ」
『ふっ、ぅ…ごめん…っ！』
切れてしまわないようにと唇に指を触れると我慢出来なくなったのか、堰を切ったように泣き始めた。運転席からの距離すら煩わしく感じて、片手を回しシートベルトを外すと出来るだけ助手席側に寄ってその肩を引き寄せた。声を上げて泣く彼女は初めて見たけれど、とても胸が痛かった。きっと今の時までずーっと我慢していたんだろう。悲しいのも辛いのも痛いのも彼女なはずなのに、悔しくて苦しくて涙が滲んだ。
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 127人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「オリジナル」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
夜宵(プロフ) - 蒼姫さんの作品を遡って読んでいたらこの作品にたどり着きました。いい意味でオチが全然見えなくて、ハラハラしながら読み切ってしまいました。蒼姫さんのペースで構いませんので、完結まで楽しみにしています。 (2020年5月8日 19時) (
レス) id: af02700ee8 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
作者名：蒼姫 | 作成日時：2019年8月22日 13時
