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「A、これ…」
『えっ、買いに行ってくれたの?あの後に?』
「閉店間際だったし、あんまりじっくりは選べんかったけど…せめてもと思って」
家について、おずおずとたいちゃんが差し出したのはよく見る雑貨屋さんの袋で、中には丁寧に梱包されたペアのお茶碗。まさかあの時間からイオンまで車を走らせてくれたとは。
『わぁ、可愛い!よくこんなの一人で買えたねたいちゃん』
「ばか恥ずかしかったに決まってるやん」
『でしょうねぇ…』
「…壊れたものは元に戻らないかもしれないけど、こうやって新しく出来るものは出来るやん」
『うん、』
「大切にしてた気持ちを無下にするわけじゃなくて、また新しいものを慈しんでいけたらいいなって僕は思うよ。勿論、壊れないに越したことはないんだけど」
器を持つ私の手に自分のそれを重ねて、下を向いたままぽつぽつとそう話す彼。そう、大切に思っていなかったわけじゃない、それは私もわかってる。あの時はついカッとなっちゃったけど。
『…ごめんね、怒って』
「僕こそごめんね。大事にしてくれてたのに」
『なんか寂しく思っちゃって…悪い方に悪い方に考えちゃった。悪い癖だね、私の』
マイナス思考は昔からの悪い癖だ。いつもそうやって勝手に落ち込んでしまう私を、慰めて自信をくれるのはたいちゃんだ。彼もあまりポジティブ思考ではないんだけど、こと私に関しては前向きな言葉で気持ちを軽くしてくれる。
「そうやってお互いにないところを補填していけるし、それを認め合えるからいいんだと思うんだよ」
『ふふっ、うん』
「Aがいるからそう思える…だから僕は、壊れない努力をしようって思えるんだよ」
『…あー、だめ。たいちゃん、好きが溢れちゃう』
「何言ってんの…まぁそうやって好意を素直に口にできるところも、Aの長所だと思うけどね」
価値観の違いがあったって、長所や短所があったって、二人がそれを認めて乗り越えていければいい。きゅっと目を瞑って顔を上げれば、たいちゃんは笑って唇を重ねてくれた。
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価値観の違いってどうしても埋められない
壁みたいなもんですよね。
虫さんは大人だからそんな所もまるっと
愛してくれそうな気がします。
2019.10.30 蒼姫
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作者名:蒼姫 | 作成日時:2019年10月19日 15時