夢で逢いましょう。 (ページ29)

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価値観ページ29

Mushimegane×恋人

『たいちゃんの馬鹿！もう知らん！』

「はいはい、好きに言っときん。馬鹿でも何でもいーだら。分からず屋のAが悪い」

溢れそうになる涙を堪えて何も考えず部屋を飛び出せば、夜の風はじわじわと体温を奪っていく。声を荒げて大喧嘩なんて、付き合って以来初めてだ。普段なら絶対そんなことしないし、もう少し冷静に話し合いで解決できるはずだった。

『分からず屋なのはたいちゃんの方やん…』

きっかけは些細なことで、たいちゃんがうっかり割ってしまったお揃いの茶碗。大層気に入ってたこともあって機嫌が悪くなってしまったのだけど、たいちゃんはすぐに謝ってくれた。そしてまた新しいのを買えばいいよと私に言った。

『何でそんなこと言うの…これ、凄く大切にしてたのに』

虫の居所が悪かったとか、少しばかり疲れていたのもあるかもしれない。いつもだったら仕方ないねで笑って許せたのかもしれない。それでもその時の私にはそれが出来なかった。だってそれ、初めて一緒に遠出した時に2人で選んだ物だったから。個人でやってるお店で、品物は全て手作りだから一点物ばかり。同じやつなんて見つかるはずがないことを、たいちゃんだって知ってるはずなのに。

『私だけなんかなぁ、大事に思ってたの』

たかだか茶碗でと、普通思うしそう思うたいちゃんの気持ちも分かる。割れてしまったことが悲しいんじゃなくて、新しいものを買えばいいとすぐに気持ちをシフトしてしまう切り替えの早さが悲しいんだ。そんなつもりないのもわかっているけど、なんだか私自身を大事にされてないみたいに感じてしまって。