検索窓
今日:7 hit、昨日:2 hit、合計:63,895 hit

ページ14

『…あ、タバコ切れちゃった。ゆめまる一本ちょーだい』

「ん、ライターいる?」

『大丈夫、あるから』



しわしわの紙袋から取り出したそれは、肺から吐き出せばいつものタールの軽いメンソールと違って重くて苦い。咽せ込みそうになるのを抑えて水で流し込めば、目に薄い水の膜が張った。あぁ、やだな。でも言わなくちゃ、でも。



「A…?泣いてる?」

『泣いてないよ、ラキスト苦いんだもん。折角貰ったのに悪いんだけど、苦しくって涙出てきちゃった』

「…Aいつもメンソールだしね」

『ふふっ、うん。よし、明日も早いし寝よ寝よ』



言わなくちゃいけない言葉を飲み込んで背中を向けてベッドに潜れば、おやすみの一言以外ゆめまるは何も言わなかった。もしかしてバレたかな、それならそれでいいかもしれない。涙が溢れないように、吐く息が震えないように、必死に目を瞑ってその場をやり過ごした。最後まで弱虫な私で、狡い私でごめんね。



『…よしっ、』



明け方。チェックアウトの時間にはまだ早いけど、静かに準備を済ませて忘れ物がないか確認した。彼はまだベッドで夢の中。最後にちょっとだけ顔が見たくなったけど、起こしてしまったらきっと帰れないから堪えて部屋を出る。思い出も悲しみも…ゆめまるを好きになった気持ちも、全部この部屋に置いて出て行けたらいいのに。



"連絡先を消去しますか?"



画面をタップする指が震える。ホテルの外に出ると画面に雨粒が落ちてくる。生暖かいそれを涙じゃなくて雨だと信じたい私は凄く滑稽だ。でもそれも、全部今日でおしまい。



"はい"



『さよなら、ゆめまる』



最後に貴方に言えなかった言葉。
少しは寂しがってくれるかなって考えて、笑った。



−−−−−−−−−−−−−−−−−−
浮気はダメ、絶対。
でも沼ですよね、好きになったらきっと。


2019.10.20 蒼姫

好きな色→←▽



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 9.7/10 (30 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
107人がお気に入り
設定タグ:東海オンエア , 恋愛 , 短編   
作品ジャンル:恋愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:蒼姫 | 作成日時:2019年10月19日 15時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。