君と僕と僕らと (ページ8)

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「…お前が女の顔するのがやなんだよ」

子供が親に叱られた時の言い訳のように、絞り出した声は自分でも驚くほどに弱々しいもので、それでも彼女は言葉の続きを待っていてくれた。こういうところは、昔から変わらない。感情に左右されず、いつだって論理的に、そういう大人なところが偶に嫌になることもあった。仲間だからこそ本音でぶつかれることもある、幼稚だった俺はそう言って彼女を避けた時期があったことを思い出す。しかし結局のところわかっているのだ、彼女の方が正しいと。

『…さっきの後輩、彼女の誕生日だからって定時で仕事切り上げてきたところみたいよ。今頃楽しそうにしてるといいけど』
「…そ、う」
『彼をそういう目で見たことはなかったけど、まぁシルクが嫌だっていうなら気をつけるわ。心配してくれてるんでしょう？不祥事なんて起こさないし、何かあったら仲間に相談する。そうやってやってきたでしょ、私たち』

俺の気持ちを知ってか知らずか、そう続けたA。先程の男が彼氏ではないことに安堵をしたのも一瞬、なぜ安堵してしまったのかと疑問が浮かぶ。そしてまた、彼女の続けた言葉には、これ以上踏み込むなという壁のようなものが垣間見えて、再び俺は声を上げそうになった。

「そうかよ。あんな泥酔状態で男に家まで送らせといてそれが言えるのかよ」
『それは…悪いとは思ってるけど、憲さんとは何もないし』

憲さん、と続けられた名前に余計腹が立った。俺だってAの知らない交友関係は勿論ある、仲間だからってそこまで共有しろと言うつもりはない。俺が腹を立てるのは門違いなのも承知している。だけどこの沸きあがった怒りをどう消化したらいいか分からない俺は、ただ吐き出すことしか出来ないただの子供だ。

『シルク、今日変だよ…ううん、この前もそう。一体どうしたっていうの？私何かした？』

薄ら涙すら浮かべる様子で目の前のグラスを見るAに、どうしたらいいか分からない俺は彼女の腕を引いてきつく結んだ唇に噛み付いた。