君と僕と僕らと (ページ12)

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『あ、マサイお帰りー』
「ただいまー？あ、飯作ってくれたん？」
『もしかして食べてきた？』
「いや、まだだったから助かるよ。でも、別に気にすることないぜ？」
『自炊好きだからやってるだけ、気を遣ってやってるわけじゃないよ？』

今日は早めに自宅へ戻ると、Aが夕飯を作って待ってくれていた。きっとうちで世話になる事、気にしてるんだろう。昔から彼女は無遠慮に見えて誰よりも周りに配慮してくれている。俺はこんな美味い飯が食えるなら、いつでもウェルカムなんだけどな。それが彼女となれば、尚更だ。

『苦手な物は入れてないはずだけど、ダメだったら言って』
「いや、美味いよ。嫌いな物は昔から変わってないし。ありがとうな」
『私の方こそ、感謝してもしきれない…』

やや俯き加減でそう呟く彼女に、伏せた睫毛の影が震えた。ふと彼女とシルクが同居を始めたきっかけを思い出す。職場の独身寮の期限が切れてしまうが物件探しに気が向かないと嘆いていたところを、うちに来ればいいじゃねぇかとシルクの何気ない一言でそうなった。お互いを意識する間柄ではない、その事実が突き付けられたことに少なからず動揺し、そうはならないと俺は高を括っていたが予想に反してAはシルクとの同居を始めた。あの時、下心があるとはいえ俺が名乗りを上げていれば、一緒に住んでいたのは俺だっただろうか。

「まぁ、よかったんじゃねぇ？こうやって離れて考え直すことも必要だろ、お前たち」
『そう、かな…』
「シルクが妬いてんだ。Aにとっては一歩前進じゃないのか？」

よくもまぁ、思ってもない事が口をついて出るものだと自分でも感心する。それでも、自分のことより彼女の笑顔が取り戻せるならと思う俺は、とことん彼女に弱いんだと嘲笑さえしそうだ。そんな俺と同じく、彼女もまた悲しい笑みを浮かべて言うのだ。

『私、シルクとどうこうなりたいわけじゃないの。好きな気持ちは、蓋をするって決めた。だから、今更変わって欲しいわけじゃないのよ…そんなの、怖すぎる。友達のままの方がずっといい』

それは、友達の部類に入る俺も同じなんだろうな。彼女が変化を恐れる気持ちはよく分かる。俺だって同じだった。だからこそ言うのだ、こんな美味い飯が食えるならずっとうちにいてくれていいぞって。すると顔を上げで、俺の大好きな笑顔を見せてくれるんだ。そうやってお前が笑ってくれるなら、俺は何でもいい気さえしてくるんだ。