君と僕と僕らと (ページ1)

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朝5時。アラームが鳴るより先に微睡みから覚醒した頭はいつにもなくスッキリしていたが、覚醒した頭が認識した現実はすぐに私の心に靄を掛けた。そんな憂さを晴らすように熱めのシャワーを浴びたところで、この杞憂は晴れてくれないことを私は知っている。

『…はよ、』
「……」
『…挨拶ぐらい返せってーの』

リビングに出るといつもの如く炬燵に潜り液晶画面と睨めっこをしてる彼を視界に捉え、届きもしないとわかっているけれどそう吐き出せば、予想通りに彼の背中は返事をくれなかった。諦めてキッチンへ移り冷蔵庫から一本ペットボトルを取り出し、彼に倣って炬燵に潜り込んだところでその双眼がこちらに向き、寝起きの私を捉えたかと思えばすぐに画面に戻った。静かにイヤホンを抜き取ることは忘れずに。

「起こした？」
『んーん、勝手に起きた。せめて炬燵の電源入れなよ、風邪引く』
「まだいーよ」
『朝は冷えるよ』

淡々と、そう会話をする私達は血の繋がった家族でもなければ恋人でもない。同級生といえばしっくりくるのだが、それだけでは片付けられない歴史が私達の間にはある。それはここにいないメンバーも含めての話だが、それ以上にこの男との歴史は語り尽くせないものがあり、今思い返しても私の短い人生の中でとても色濃いものであると断言できよう。

「腹減った」
『昨日の残りならあるけど。温めて食べたら？』
「…Aー、やってー」

甘えたように横に転げて私に目を配る彼は、きっと世間一般からすれば可愛いと思う物なのだろうが、私からすれば鳥肌が立つほど気持ち悪いと思う他ないそれは、きっと私達の歴史を物語っているのだろうと思う。しかし結局のところ根負けし、私が彼の言われるがままに甘やかしてしまうのは、長年拗らせた恋心がそうさせてしまっていることを、私は痛く実感している。

「あー、うまー」
『さよけー』
「本当の好みわかってるよなーお前」
『別にそうしてるわけちゃうしー』
「さよけー」

出社までは時間がある為、私も倣ってゆっくりと朝食を取った。きっとこれから彼は短めの眠りにつくんだろう。お腹が膨れてきたからか、子供のように目をこすり始め、その場に転がろうとする背中を蹴飛ばして寝室に突っ込んだ。こういった生活を始めて、そろそろ一年になる。私たちが出会って丁度10年目の春を迎えようとしている時だった。