ー花火ー 今市隆二 × 登坂広臣

3 ページ3

.





『あ、す…すみませ…』






私の只ならぬ様子に気付いたのか…

不審者疑惑をかけられたその男性。



ぐったりとおぼつかない様子で
サングラスとマスクを取り

眠そうに一度目をぐりっと擦って
私を見つめる。








『俺…間違え……隣…部屋……っ住んで…す』




「……お、お隣さんっ………？」







廊下の薄暗い照明の光に照らされた男性は
とろんと虚ろな目をしていて。




でもあまりはっきりとは見えないけど、

一見コワモテな雰囲気で。
イカツくて、……怖い。









男性は座ったままの体勢で

今度は床を向いて
ぽつり、ぽつりと話し出す。



顔を両手でごしごし擦ったり。

ピタッと動かなくなったと思えば
また言葉を発したり。








「そうだったんですか！
て、てっきり私、不審、あ……いや…」







聞いた話を繋ぎあわせてみると、

この男性はどうやら
部屋の鍵を無くしたらしく。




酔っぱらって介抱されながら
この同じマンションに住む
お友達と一緒に帰宅。


階が違うからエレベーター内で別れた、
までは良かったけど……


部屋の前で鍵を探してみるも見つからなく

気づけば座り込んで
数時間程眠ってしまっていたらしい。





ほんの少しだけ警戒心も溶け
状況も分かってほっとしたのも束の間。



問題が残る事に気付いてしまった。





「あ、あの！もう遅い時間ですし、
今日はもうお友達の部屋に泊めさせてもらうとかって……」





私の言葉に反応し、
男性が顔を左右に揺らす。





『……あいつ…多分……もう寝て……
仕事今日…早……くって…迷惑かけら…んな…』



「もしかして……今日はここで
このまま寝るつもりなんですかっ？」



『……はっ………い…』





えー！！！！




再びパニくる私をよそに
男性はそのままこくり、こくりと
リズムを刻み始めてしまう。









「ね、ね、寝ちゃった」







ーーどうしよう。

お隣さんとはいえ、
鍵を無くしちゃったとはいえ、
見ず知らずの男性……


ちょっとコワモテな雰囲気だけど
でも悪い人ではなさそうな気も……する。






私の部屋に入れてあげる？
いや見過ごした方が安全……？



夏だとはいえ風邪引いちゃう…よね？






.

4→←2

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す